7粒目





『やくそくや。ぜったいに、またあおうや。そのとき―――――』





「……夢?」

珍しく目覚ましが鳴る前に起きてしまった。
大きく伸びをしてベッドの上に座りなおす。

告白されてから数日が経った。
あの後彼は「答えは今すぐじゃなくてええからちゃんと考えてほしい」と言って帰っていった。
翌日以降も気まずさを感じないようにかいつも通りに接してくれて、その優しさに感謝した。
そんなある日、部活に行くと言う彼と別れて私は家路につこうと廊下へと出ると彼が追いかけてきた。

「紘ちゃん」

「なに?」

「土曜日時間ある?」

「え?」

「家遊びにこぉへん?オカンが会いたい言うててん」

「あ…」

「無理にとは言わんけど」

「あ、ううん。行くよ」

「ほんま?せやったら土曜迎えに行くわ」

「え?」

「自分俺ん家わからへんやろ?」

「いや、でも住所教えてもらえれば」

大丈夫なんだけど、そう言いかけた私の耳元に蔵ノ介くんは顔を寄せる。

「ほんまは俺が一緒に居たいだけやねん」

「!」

「ほな土曜日な」

言うだけ言って彼は手を振ると教室へと戻って行った。私に気持ちを告げてから時に大胆な発言をするようになった。翻弄されてる、と思う。
思い出して勝手に熱くなる顔を押さえる。
時計を見るともうすぐ目覚まし設定した時間だった。

「着替えよ…」

アラームを解除してクローゼットを開ける。何を着たらいいのか、あれやこれや引っ張りだして結局最近買ったワンピースに落ち着いた。
普段はしないメイクもうっすらとして鏡と睨めっこする。これでいいのか緊張と不安が頭を占拠する。
落ち着きたくて私はあの魔法のキャンディを一粒口に放った。
今日が約束の土曜日だった。

ピンポーン

チャイムの音に私は慌てて玄関へと向かう。
ドアを開けると予想通りそこには彼がいた。

「おはよう」

「おはよ、」

私服に身を包んだ蔵ノ介くんはいつもより更に大人っぽくてドキドキしてしまう。準備出来とる?と聞く彼に頷くとほな行こか、とごく自然に私の手を取った。
まるでいつもしているかのように。
家を出て片手で鍵をかけ、彼に手を引かれながら歩く。
歩いてる途中、ふとこっちを見た彼がにこっと微笑んで言った。

「そのワンピース似合っとる」

「え、ほんと?」

「めっちゃかわええ」

「あ、ありがと…」

彼のようなかっこいい人に真っ正面から可愛いと言われて照れない子はいないだろう。
私は赤くなった気がする顔を見られまいと俯いた。そこに彼がまたかわええと言ったものだから私はもう顔が上げられないと思った。





彼の家での歓迎されっぷりは家でのそれを遥かに上回る勢いがあった。豪勢な食事に有名パティシエのケーキ、そして蔵ノ介くんのお母さんの熱烈なハグ。美人なお姉さんや可愛い妹さんには蔵ノ介くんをよろしくと挨拶された。(不甲斐ない彼氏だと思うけどと笑ったお姉さんには慌てて訂正しておいた)
お母さんやお父さんには家の蔵ノ介の嫁になってくれと言われ、私は滅相もないと首を振るばかりだった。
そんな私を見兼ねたのか蔵ノ介くんがもうええやろ、と彼の自室に連れ出してくれた。
清潔感のある部屋には一角に健康器具が並んでいて、体に気をつけてるんだなぁと思わされる。

「すまんなぁ、家うるさくて」

「ううん楽しいよ」

「でもほんまに俺の嫁になってくれたら嬉しいんやけど」

「えっ」

「冗談や」

「なんだ…」

「ほんまはほんとやけど」

「えっ」

「紘ちゃん、おもろいなぁ」

「…からかわないで!」

「すまんすまん」

笑いながら蔵ノ介くんはベッドに座り隣をぽんぽんと叩く。
どうしよう、緊張する。
そう思いながらも恐る恐る腰を下ろすとそっと手に何かが触れた。彼の手だ。

「手、繋いでもええ?」

「う、ん…」

そう答えた途端きゅっと握られる。
その瞬間ドキッと心臓が跳ねた。落ち着かない。告白されてから異常に意識してしまっていて、自然な蔵ノ介くんが恨めしくなるほどだった。

「…紘ちゃん」

繋いだ手を軽く引かれ体が傾く。彼の肩に触れた体を離そうとしたけどあっさりと手を離し肩を抱かれてしまった。繋がれていた手は今度は反対の手で繋がれる。逃げ場がない。心臓の音が聞こえたらどうしよう。
私の頭の上にある顔がふっと笑ったのがわかった。恥ずかしくて顔は見れない。息の音だけで判断した。

「…好きや」

甘く、囁くみたいに言われて心臓がきゅっと縮むみたいな感覚に陥る。

「私、も」

勝手に口に上ったこの言葉はきっと嘘じゃない。

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