元拍手お礼夢
「あら紘ちゃん、またそのせぇらぁ服着てるん?」
「え?ダメですか?」
「ダメやないんやけど…今日はみんなで長州藩邸いくんやろ?目立つんやないの?」
「あ…」
「せや!私のお古の着物紘ちゃんにあげるわ!」
「えっそんな!悪いですよっ」
「ええのええの。ただ持ってても宝の持ち腐れやし、紘ちゃんに着て貰えた方が着物も喜ぶさかい」
「それじゃ…お願いします」
「ほな、行きましょか」
にこにこ顔のお登勢さんに背中を押されてお登勢さんの部屋に入る。箪笥の中からいくつか着物や帯を引っ張り出しては悩み顔で私に合わせてみる。
「うーんこっちがええかなぁ…それともこっち…」
ピンクの花柄や水色の藤柄、綺麗な着物が次々と私に合わせられる。
「やっぱりこっちかなぁ」
私が着付けてもええかしら?とお登勢さんが言って、私はピンクの花柄の着物を手際よく着付けられた。
「うーん大丈夫かなぁ…」
あのあとお登勢さんから色とりどりの着物や帯、簪や巾着までいただいて部屋に戻った。
髪を結いあげて簪を挿し、かるーくお化粧をして鏡を覗き込む。
見慣れない自分の姿に違和感しか感じない。
ちゃんと…似合ってるのかな…これ…
「姉さん?もう出るっスよー」
「あ、うん今行くっ」
襖の外から慎ちゃんの声がして私は慌てて巾着に荷物を詰め込んだ。お登勢さんからこれもまたいただいた草履を掴んで慌てて玄関まで走る。
「おいっ遅いぞっ…!?」
「ごめーん!」
玄関の中で待ってくれていた以蔵と目が合うときょとんとした顔をする。
「お前…その格好…」
「えっ変かな!?お登勢さんがくれたんだけど…」
「……」
「以蔵?」
「…似合ってる」
「え?」
「ほら行くぞっ先生がお待ちだっ」
「あ、うん」
今、似合ってるって言ったよね…?
ぼやっと考えていると玄関の外から龍馬さんたちの声が聞こえる。
「以蔵おんし顔が赤いぜよ」
「赤くないっ」
「雫さんは」
「今来ます」
やばいやばい急がなきゃ!
「すみません…遅くなって…」
そろっと玄関から出ると最初に慎ちゃんと目が合う。
「姉さんっそれ…!」
慎ちゃんのその声に一気にみんなの視線がこっちに向くのがわかった。うっ…恥ずかしい…
「…成る程、以蔵の顔が赤かった理由がわかったぜよ」
「龍馬っ!」
「姉さん似合ってるっス!可愛いっス!」
「あ、ありがと慎ちゃん…」
以蔵を押し退けて手を繋いでぶんぶん振ってくる慎ちゃんに軽く圧倒される。
「こら中岡!紘が痛いじゃろ!」
「あっすみませんっス!」
「わっ!」
ぶんぶん振られた後に急に手を離されたから思わずよろけてしまう。後ろに傾いた私を支えてくれたのは武市さんだった。
「大丈夫かい?紘さん」
「あ、ありがとうございます」
「いや。…それにしてもよく似合っているね」
「あ、ありがとうございます…」
こんな至近距離で褒められると流石に恥ずかしい…。
「おお!そろそろ急がねば」
「ああ、そうだな」
龍馬さんのその言葉でみんなが一斉に歩きだす。
途中で大久保さんを迎えに行く慎ちゃんと以蔵と別れて私達は長州藩邸に向かった。
「やあ、いらっしゃい」
長州藩邸に着くと桂さんが出迎えてくれた。
「桂さん、こんにちは」
「遅くなってすまんのう桂さん」
「いや、大丈夫ですよ。紘さん、今日は着物なんだね」
「あっはい!」
「よく似合っている。可愛いよ」
「ありがとう、ございます」
桂さんはそう言いながら頭を撫でてくれる。なんかみんなの反応がくすぐったいな…。
「おうっやっと来たのかっ」
「高杉さん」
奥からずんずんと歩いてくる高杉さんが私に目を止め、大袈裟に驚いた。
「お前っ今日はいつもと違うのか!」
「は、はい」
「はっはっは!よく似合ってるぞ!」
そういいながら高杉さんは桂さんの手を退けて頭をぐわっしぐわっしと撫でる。うわわわわわ髪が崩れちゃうよ…
「高杉さんその辺にしといてくれんか、せっかく綺麗にした髪が台なしじゃ」
後ろから龍馬さんがやんわり執り成してくれてなんとかやめてもらえた。
「こら晋作。早く皆さんを部屋に案内しなさい」
「おうっこっちだついて来い!」
「では私はお茶をいれてくるよ」
前をずんずん歩く高杉さんの後ろに武市さんがついていき、桂さんは台所の方へ行く。私は振り返って龍馬さんを見た。
「龍馬さん」
「ん?」
「さっきはありがとうございました」
「ああ、気にせんでええ。お?簪がまがっちょるな…ちくとじっとしちょってくれ」
「え…あ」
龍馬さんが私の髪を真剣に直してくれているけど、か、顔が近い…!
「よし、これでええじゃろ」
「ありがとうございます」
「…それにしてもまっこと可愛ええのう…よう似合っちょる」
「…」
龍馬さんが頬を赤らめて真っ直ぐ言ってくるから私は恥ずかしくてつい俯いてしまう。
「なに玄関先で逢い引きしているんだ」
その声にぱっと顔を上げると龍馬さんの後ろに相変わらず偉そうな大久保さんが立っていた。その更に後ろには慎ちゃんと以蔵の姿も見える。
「なんだ小娘、今日は珍妙な服じゃないんだな」
また珍妙って言われた…。
「馬子にも衣装、だな」
ニヤリと笑みを称えて大久保さんが言い放つ。馬子にも衣装って、褒められてないような…
「私が褒めてやってるんだ、もっと嬉しそうな顔したらどうだ、小娘」
「紘です。それに馬子にも衣装って褒めてたんですか?」
「ああ、思っていたよりはよく似合っている…紘」
「!」
くい、と顎に手をかけられて大久保さんと視線が合うように顔を上げさせられる。前触れも無く呼ばれた名前に顔が勝手に赤くなる。
大久保さんは満足そうに笑って手を離した。
「今度薩摩藩邸に来い。お前に似合う着物を用意しておいてやる」
そう言いながらさっさと大久保さんは藩邸の中に上がり込んで行った。
「さ、ワシらも行くぜよ」
龍馬さんが頭にポンと手を置きながら言って、漸く私達も藩邸の中に入っていった。
拍手ありがとうございました!
(もしかしたら続くかも?)
▼