マンマ・ミーア!








「どうしよう・・・ワムウ!!」


そう帰宅早々叫んだアリアに応えるべく、ワムウと呼ばれた筋骨隆々の男は姿を現した。


 「どうしたのだ…アリア」

何もない所から突然現れた男に驚愕する様子もなく、アリアは眦に涙を浮かべたまま彼女が最も信頼する男に抱き付いた。勢いよく抱き付いたが、ワムウは後退ることなくそのがっしりとした胸と腕で抱き留めてくれる。

たったそれだけでもアリアは堪らなく嬉しかった。
ワムウ曰く、カーズに酷似した顔を困惑と未来への恐怖で蒼褪めさせたアリア。ワムウはそれをみてアリア本人以上に一瞬だが焦燥に駆られるが、すぐさまいつもの引き締まった顔に戻す。

幸いにもアリアはそれには気づかなかった。彼女の華奢な身体を巡る衝動に身を任せて咆哮する。


 「嗚呼…ワムウ!私、私……ッ!!」

フルフルと身を震わせながら手で顔を覆うアリア。ワムウはどうしたのだ、と声をかけつつその小さな背中を何度も撫ぜた。

幼子を宥めるかのように何度も、何度も繰り返す。

ワムウに身体を預けていたアリアはワムウにそうされ漸く震えが治まったのか、臥せていた顔を上げた。


 「ワムウ……私、」
 「ゆっくりでいい。お前のペースで話してみろ」

コクリと小さく頷いた。その反応にワムウは安堵する。

アリアにとって父よりも強く、母よりも寛大で、もし存在したとしても兄よりも頼りがいのある男こそがワムウだ。彼女はワムウの渋い声を聞くだけで心の底から安心し、大きな手のひらから感じる温もりは、まるで太陽の光で温められた砂のようだと思った。

どんなに恐ろしい悪夢を見た時もワムウに抱きしめられて寝れば怖くないと知っている。だから、

(彼なら、きっと……)

屹度、今から云う普通なら信じられない話だって受け入れてくれるに決まっている。アリアはそう直感した。だから彼女は話した。


「私、近い未来に吸血鬼の子どもを産むの」


ワムウの目が驚愕で見開かれたが、アリアは至ってまじめだった。




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