マンマ・ミーア!







DIO視点


私が“スタンド”に興味を持ってから世界各地に存在する潜在的スタンド使いを探し、仲間にしていた頃。

この私のカリスマ性を持ってすれば大抵の人間は餌を与えられ飼い慣らされた犬のように私に平伏す。私の為に全てを奉げると……だが口でどれだけ忠誠を誓っていても、時に人は猫のようにあっさりと主人を捨てるものだ。砂糖に群がる蟻の数くらい大勢の部下を持っていても私はその誰一人として信用しない。

私は私には心の底から信じられる人間がいない。

 厭、正確には今はいないと謂った方がいい。嘗ての、まだ人間という弱く、貧弱で、薄汚いちっぽけな存在だった頃の私が、自身に注がれた無償の愛を信じられたのはあの気高く女神の如き神聖さで、清廉で、私を愛してくれた母がいたからだ。あの屑の父親にこき使われ、苦労ばかりの短い人生を終えてしまった女。最後の瞬間まで貴方は美しかった。貴方の生死の境目の、その瞬間こそがこの世でもっとも神聖で、美しく、だが同時に悪魔的な芸術性を孕んでいた。その瞬間が永遠に続けばいいと思ってしまうほどに……、

今ならあの時願った力があるというのに、肝心な貴方はここにいない。

 我が母よ、我が女神よ、このDIOの身体にはもう貴方から貰ったものは首から上の頭部しかない。貴方の血肉で作られた首から下の体躯は全てあの忌ま忌ましいジョナサンに壊された。
 母よ、我が最愛の女よ、貴方がいない世界にいる息子はもう太陽をこの目にすることができない。貴方を奪ったあの存在(太陽)がない夜の世界で生きるしかない。

今スタンドが孕む可能性というものに私は興味がある。
生まれ育った環境で変わる個人のスタンドの能力ならば、石仮面の力で吸血鬼となったこのDIOですら出来なかったことを可能にするかもしれない。
母よ、愛する人よ、私のアリアよ……

 今日も部下から手に入れた情報でスタンド使いの下へ行く。
日が暮れてから動き出すため、エジプトの妖しい夜の世界は街燈の明るさよりも、空高く降り注ぐ月光の方が眩しい。
夜の太陽のような満月の下を優雅に散歩しつつ、目的の建物の目前までたどり着く。

階段を一段一段上り、件の占い店の扉に手を掛けるが開かない。人の気配がしない、留守か。仕方なく二階の壁に背中に身を預けることにした。

それから二時間、帰宅した男の姿が視界に映り舌なめずりする。

ああ、警戒している。

 「君は、普通の人間にはない、特別な能力を持っているそうだね。」

さあ、

 「ひとつ、それを私に見せてくれると嬉しいのだが……」

そこで話を切った。
この男の眼に宿るのは恐怖――だがほんの少し、爪先程度の好奇心。この私に魅了され、恐ろしいがゆえに手を伸ばす、知りたいと思ってしまうのは人の性だろう。それでもこの男には惜しいことに屈服するにはそれがまだ少し足りない。好奇心を心のどこかで否定している。賢い奴だ、賢く、ここで屈したほうがどれだけ楽か解っていても抗う愚か者だ。

残念だが仕方ない。
私は髪をうねらせ、男に近寄る。嘗て甦らせた伝説の騎士・ブラフォードのように髪を使うと意志を持った別の生き物のようだ。
その先に咲く毒花が蜜を滴らせ、対象の額に深く突き刺しにかかる。

だが男は逃げた。地理を活かし、無様な姿を曝しながら逃げる。

追いかけるのは容易だが、今夜はいい月夜だ。気まぐれを起こし、後を追うことはしなかった。偶には無様に這いつくばって逃げ回る人間を見るのも一興だ。

その時、ふと何かの気配がした。

ギィィィィ……。
家主が逃げた店の扉が開いた。これはまた奇妙なことだと思いつつ、たとえどんなことがあったとしても私には通用せん。不安や恐怖なぞ存在しないのだ。
ジッと扉を見つめる。暗い闇の中からのっそりと顔をのぞかせたソレは、

「かあ、さん・・・?」


妖しげな美しさで魅せる月明かりに照らされた彼女は、間違いなく死んだ母親だった。




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