マンマ・ミーア!






※柱の一族を若干捏造



遥か昔、人間が誕生する以前から彼らは存在した――・・・

生物が種を残すのは一種の生存本能からであり、長い歳月を生きる彼らには繁殖の必要性がため個体数も少なく、平和に暮らしていた。

それから人間が生まれ、地下深くに暮らす彼らを悪魔や神のように畏れだした。
丁度その頃だろうか・・・一族に一人の天才が生まれた。


力を欲し、好奇心旺盛で貪欲な男が生まれたのだ。その男はカーズという。

唯でさえ人間以上の知能を有していた彼らの中でも“天才”と云われたカーズは「石仮面」という不死身の能力を齎すものを創る。
カーズが石仮面を創ったことで彼らもカーズを殺さなければと動き出し、逆に返り討ちに合った。カーズは二人の赤子とエシディシと共に集落を去った。

太陽を克服し、全てを支配する。他者の命を貪る危険な男と一族は謂った。


しかしそうではない。それだけがカーズが自分の親すら殺した理由ではない。そもそも石仮面を創った理由でもなかった。


カーズたちは太陽を嫌い、光の差さない地下に暮らしているため“闇の一族”と云われる。
一方で逆に陽の光が無ければ生きていけない“陽の一族”が存在した。


彼らは共に食べるものも、寿命も、個体数も同じだった。
彼らの共通点であり相違点でもある『睡眠』、闇の一族は二千年周期で深い眠りにつき、岩の様な状態になる。
陽の一族は陽が昇っている間は植物の様にその身体に陽の力を蓄え、夜は岩になって眠る。人間にしてみれば彼らの違いはなく、通称“柱の一族”と云われていた。


陽と闇、活動時間が異なる両者だが仲は悪くなくとも近寄ることはない。どちらもお互いが害になることを本能的に知っていたからだ。闇の一族に天才が生まれて数百年後、陽の一族には一人の女が生まれた。個体数が少ない一族はどちらも圧倒的に男が多いため女は生まれた時より丁重に扱われて来た。しかしこの生まれた女児、ただの柱の一族ではない。

彼らが畏れるカーズ同様の知能を有していると噂が広がり、比較対象のカーズは当然興味を持つ。
彼の友人のエシディシと共にこっそり見に行った湖はその女が一日に一度、必ず訪れる場所だった。

カーズたちは陽の光を浴びれば死んでしまう。だから影からこっそり女をみた。
そのころには女も成長し、美しさを誇る一族すら劣ってしまうほどの神の如く美貌を持っていた。

闇の中では明るく、陽の下では煌めく銀糸
身体に何も身に着けず、湖の中で濡れる肉体は黄金比の芸術だ。一族でも男の理想の肉体を持つカーズだが、決して万人が「美しい」と称すものではない。必ず一人か二人は世の中に例外が存在するはずだ。しかし、女は、後にカーズがあの手この手で知るアリアという彼女はまさに神の如く、唯の筋肉と侮るなかれ。内側から細胞が一族の名に恥じないように光り輝いているのだ。その光を認めにくいのはそれ以上に美しい銀色の髪に目が行ってしまうからである。

嗚呼、目の色は何色なのだろうか・・・?

思わずカーズは身を乗り出した。そのせいで身体が日光を浴びてしまいジュッと焼ける匂いが鼻孔に届いたことで自分の状態に気づいた。身が焦げそうになっても彼の視線はアリアに集中していたのだ。


太陽を背に輝くその姿・・・まさに月のようだった。美しく、儚く、不安定で妖しく・・・不思議な魅力にあふれていた。

カーズはアリアを真昼の月だと称した。本来違えた一族であるのも気にせず、カーズはアリアに触れたい、もっと近くでその目を見たい、自分のモノにしたい欲求が働く。どこまでも貪欲な男はその優秀な頭脳で石仮面を創る。

一方その頃、カーズが一族を滅ぼしたのを聞き、陽の一族のものたちはアリアを怖れた。もしや彼女も同じことをしでかすのではないか・・・?と。
完全に無罪の彼女は彼らを殺す気になれなかった。
憂いたアリアは一人静かに眠ることを決める。真昼にも関わらずお気に入りの湖の底に沈み、生まれた時より持っていた不思議な力を使って水面を凍らせるのであった。


奇しくもその夜、石仮面を完成させたカーズにはアリアともうすぐ触れられると珍しく浮かれていた。いや、彼はアリアに出会ったあの日からよくそうなる。柱の男といえども恋に浮かれていたのだ。
彼女の一族はそろそろ眠るところだった。しかしカーズの登場に吃驚し、余計なことを口走った。

それはカーズが何よりも恋い焦がれた女のことだった。
全てはカーズの一存、彼女は何も知らない。カーズの顔も知らないだろう。なのに巻き込まれたとしかいえない悲劇。
怒りに身を任せたカーズによって陽の一族も滅び、急いで湖へ。

そこは芸術的なまでの氷の世界。カーズだからこそたどり着けたのであり、ただの人間には不可能だろう。
カーズの身体すら震わせる冷気、その発生源たる湖は分厚い氷で固められている。

超人的な視力で目視できた水面下、そこに眠るのは彼が恋したたった一人の女。
さめざめと泣いた・・・
やっと太陽を克服し、触れることができると期待していた。しかし後に分かることだが仮面だけではカーズは究極生命体になれなかったからどちらにしろもう少し時間がかかっただろう。
しかし、そんなこと今のカーズは知らない。彼が生まれて初めて、そして最期になる涙は凍り付き頬のあたりで氷と化した。


その後、カーズは赤石の存在を追うと同時にアリアの目覚まし方を知るが、生憎時間がなかった。二千年の眠りにつく前に考えることは等々知らずじまいだったアリアの目の色を想像し、瞼を下ろした。




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