マンマ・ミーア!


兄の場合1





 彼の名前はルイス。美しい容姿、恵まれた体格、与えられた才能を持つ才色兼備の男だった。
彼は器用に物事をこなし、友人も恋人もいた。誰がどう見ても幸せな人生だった。物語したら彼ほど読者につまらない主人公はいないと思われるほどあっさりと人生の勝ち組レールを歩んできた男だった。

全ては過去形、そう、ルイスは環境に恵まれていてもちっとも幸せではなかったのだ。

与えられ過ぎた彼は死後も神に贔屓され過ぎだと後ろ指をさされるレベルで優遇される。
神は彼に尋ねた。「何か願いはあるかい?」と。

だからこそ彼は躊躇せず、こう答える。「刺激が欲しい」と。


そしてルイスは神にとある人間を紹介された。






「ヒーハー!!!」

そこにいるのは二人の男。一人は神が愛するルイス、もう一人はその神がルイスに「刺激」を与えるために特別に派遣した男、名前をイワンコフという。
ルイスは彼に逢って驚いた。それはイワンコフが漫画の中の住人だとか、思ったより巨大だったとか以前にまさに彼が求めた「刺激」そのものを体現したようなキャラの濃さだったからだ。


一度見たら忘れられない存在とは彼のことをいうのか。いや、彼ではなく彼女でもある。
イワンコフという海賊王目指す少年漫画でオカマたちの女王に君臨する男とルイスはあっという間に友人になった。美しいルイスを彼のホルホルの実の力で女に変え、生まれ変わった心地に
なったルイスは大変喜んだ。そしてそれを見守っていた神もまた息子同然のルイスの幸せを喜んだ。

そしてルイスはイワンコフと会話をするにつれ、世の中を嘆く。何故世界にはオカマが少ないのか。皆、昔の自分のように自由に本当の自分として生きられないのはイワちゃんと出会えないからだ!

イワンコフをイワちゃんと呼ぶほど親密な仲になったルイスは憂いた。自分のように恵まれたチャンスを与えられなかった下界の人間は不幸であると。
息子どころか娘も兼用して激愛するルイスの悩みを解決しようと、神は権力を濫用し、イワンコフの食べた悪魔の実を再現させた。差し出されたそれを躊躇いもなく口にし、咽下したルイスは能力の先輩ことイワンコフに教えを請い、オカマ拳法をマスターし、性格までイワンコフに侵された。それでも神はルイスを可愛がったからこれは筋金入りの依怙贔屓である。


「ヴァナータに教えることはもう何一つないわ。新しい世界でどうかヴァターシの分までカマバッカ王国を築き上げて頂戴。大丈夫、ヴァターシの分身ともいえるくらいヴァナータは充分女王の名に相応しいわ」

「ええ、有難う。」


ウフフと笑う姿は美しいのに何か違う。
イワンコフの世界には神におねだりしてもいけないと解るとルイスは“ある対象”をこちら側に引き入れるべく、違う世界に転生できるよう神に請うた。神はこちら側=オカマの仲間入りを知っていながらそれを許し、その世界に彼を転生させるのだった。


読者にとってこの上なくつまらない出来過ぎた主人公の名前はルイスという。

彼もしくは彼女は自分の人生の物語が完結する間近で読者を吃驚させる展開を引き起こしのである。


ホルモンを操るホルホルの実の能力者として、イワンコフに並ぶオカマ界の女王に君臨するべくルイスは全力で新しい世界で定めた対象を狙うのだ!

そう、このルイスが神に請うた世界は『ジョジョの奇妙な冒険』という。

そしてルイスはその世界のとあるラスボスの息子に生まれたが自我が父親である人外にすら修正できないほどオカマとして完成していること。
半吸血鬼らしく、他の兄弟よりもその血を色濃く引いているため成長が一番末っ子にも関わらずたった数週間で20代にまで成長したこと。

今、ルイスの前で尻餅をついた花京院典明はその目を見開き混乱している。

首に真珠のネックレス、服装は胸部と背中が大きく開いた袖なし襟ありのドッピンクの水着に近いものを着用し、ガーターベルトにショートブーツ、隠す気がないのかスケスケの網マント、女王らしい王冠を背中に流れる金糸の頭上に飾らせ、真っ赤な双眸で父親によく似た相貌で服と同じ色のドッピンクの手袋をはめた手を差し伸べる。

「ようこそキャンディーボーイ!ニューカマーランドへようこそ」

「…おい息子よ。ここはDIOの館だぞ」



ここは何処の地獄だい?・・・と。





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