マンマ・ミーア!


喰種世界5




目の前で食い入るように文字を追う親友に、永近は本日何度目かの溜息を洩らした。


「はぁ〜〜…なぁカネキ、いい加減読むの止めろよ」

それもう読み終わっているんだろう?と顎で手元の本を差す。ハードカバーなのに文庫版よりも装丁がシンプルと言うか、真っ黒な表紙に一つだけ星がぽつんと浮かんでいるだけの本。この作者の本は全てそうだ。だから表紙に書かれているタイトルをよく確認しなくてはいけない。


親友の科白に漸く本から顔を上げた金木は、中断されたことが不満だったのか眉を顰めた。


「なんだよ。いいじゃないか別に。それにこのブランド―作品は本当に素晴らしんだって!ヒデも読んでみろよ」

ほら、差し出した本を永近は嫌そうに見つめ、金木は口から勿体無いと洩らした。


「お前絶対損してるよ。彼女の作品な、もはや芸術といっていい。一度じゃこの魅力を全て理解できないところもそうだが、読者を引き込むような不思議な魅力が溢れているんだよ」

「ふぅ〜ん」

「全く。例えばこの『DIO』。主人公は貧民街出身で矜持が高すぎるんだけど、或る日気まぐれで人助けをするんだ。その時助けたのが心優しい貴族で主人公は彼の養子になるんだよ」

「へぇー…じゃあシンデレラストーリーみたいな?」

「ちがうよ。貴族には息子がいたんだ。その息子から跡取りの座を奪うべく、主人公は義兄弟をボクシングに誘って殴るついでに眼に親指突っ込んだり、周囲を操って孤独にしたり、彼女を奪ったりと徹底的に虐めるんだよ」

「……それほんとに主人公か?」

「凄いでしょ。彼女の作品で『GIORNO』以外は基本悪役が主人公なんだよ。『VANIRA』とかもね。でもやっぱり一番非道なのが『DIO』だよ。いつか作者に会ってみたいなぁ」

「あ〜…高槻泉だっけ?すげぇ美人だってお前云ってたけど、その人も彼女と同じくらい美人なのか?」

「ったく、ヒデはいつもそっちに走る」

「そりゃあ男だもん。綺麗な女性は気になるってもんよ」

「はぁ……それが顔を隠しているから解らないんだよ。解るのは性別が女だってこと、本名は汐華アリアでハーフだってこと、だからアリア・ブランド―っていうのは多分ただのペンネームじゃない。サイン会だってファンクラブの会員から抽選で当たらないといけないし、でも行ってきた人は皆口をそろえて絶世の美女だって掲示板で呟いているよ」

「へぇー!そりゃあ是非俺も会ってみたい!」

「ならまず本を読め。活字に触れろ」

「やだ!」

「……はぁ」



(金木がまだ人間だった頃のお話)


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