砂上の楼閣 | ナノ


これが今の俺(サソリ)



 里のとある重鎮の邸、その地下室からは日夜、大鍋の底を乾かしたことが無い。
いや、多少語弊がある。実際には毎日毎日、鍋は急かされるように使用者に働きづめにされていた。

 危険な薬品を取扱うこともあるため、空気感染防止のために地下の調合室の扉は見た目からして重圧だ。その扉がギィィッとゆっくり開けられ、入口から邸の主が顔をのぞかせた。

チヨは湯気が邪魔で見にくく、薄暗い室内を見渡すと、目的の人物を見つけ名を呼んだ。

「さ、さ、さ〜そ〜り〜ちゃん!」

あーそーぼー!と続きそうな呼び声に、地下室に引きこもっていたサソリは苛立った声で忌々しそうに祖母を見やる。

「……何の用だ」

「サソリや、毎日毎日引きこもって…子どもは元気に外で遊ぶものじゃぞ。ほれ、子どもは風の子というもんじゃ」

「ああ?!ババアが要求した毒の制作で籠ってんだろうが…それに外で遊ぶとかありえねー。チヨバアはもう気にしなくていいだろうが外の紫外線を舐めたらやべぇんだぞ。俺の玉のような肌に将来そばかすが出来たらどう責任取ってくれるんだそれに俺をガキ扱いするんじゃねぇ本物の干物にすんぞオラ」


 フン!と腕を組んで椅子に腰かけたまま足を組む美少年…サソリ君(5歳)は既に里が誇る上忍だった。その昔、彼が誓った人柱力になるという決意は叶ったが、里の人間からは守鶴ではなくサソリ自身が怖いと恐れられていたりする。その後も実力で今の地位をもぎ取り、常人では到底作れないような毒も三代目の写真鑑賞の合間に作ってしまう里一番の毒使い。傀儡と医療ではチヨバアが有名だが、傀儡の造形と毒に関してはサソリの右に出る者はいないとされている。

 だがしかし、サソリにはさらなる野心があった。虎視眈眈と実祖母の座る風影の相談役という(彼にとっては)おいしい席を狙っていた。そして相手は仮にも一度サソリを追い詰めた人間故迂闊に手は出せない、何よりもここで問題を起こしたら里抜けしなければいけないし、上役の孫という立場はこれからも使えるだろうと、家族愛?何それ美味しいのレベルでサソリはチヨバアを利用価値の高い身近な他人と称していた。サソリの愛のベクトルは三代目にしか向けられないのだから。

 問題はまだある。サソリは上忍としての実力もあり、それ相当の任務も熟しているが不満がある人間は数多い。だが表だっても裏でも彼らが動けないのは他でもなくサソリがチヨバアの孫だからだ。頭もよく、容姿も抜群、実力もよし、家柄も問題なし、まさに神様はサソリを相当贔屓して生み出したに違いないだろう。だが同時に性格破綻者・三代目マニア・究極のドSという点から本当に完璧な人間は創れなかったようである。

 そんなサソリは自分で立って歩けるようになってから調合を開始した。他でもない、永遠の若さと美しさを得るためには、現段階からそれ相応の気を使わないといけない!そう主張して特製の美容液と化粧水、日焼け止め、香水、サソリの年代(5歳)で使うはずもないあらゆる美容グッズの制作を始めていた。

 三代目に会うために外出する際は全身を覆い被せる真っ黒な外套に防止、サングラス、手袋、5歳という小さな体躯でトテトテと風影邸に侵入する黒いちびっこは、逆らう愚か者(護衛の忍)を地に沈め、邪魔をする者(任務報告の忍)にタックルをかます、黒地の外套にこびりついた返り血が雲模様に残り、それは未来の抜け忍集団幹部の衣によく似ていたという。


「サソリの化粧水はよく効くからの〜御蔭でワシの肌も艶々じゃ!ほれ!」

「くそババア!最近減りが早いと思ったがテメェが犯人かよ!!」

険悪なサソリと愉快そうに笑うチヨバア。三代目が来るまで祖母VS孫の言い争いは止まらなかった。





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