砂上の楼閣 | ナノ


01

 奥様の名前はサソリ、旦那様の名前は白砂。
二人は極々普通の夫婦でした。例え二人とも男性だろうとか、二人の関係も奥様の狂気的な攻めに押し負けた旦那様だったとか、そもそも二人とも人間じゃないだろうとか、諸々の問題があったとしても、二人は世間でいう「夫婦」です。

***


 奥さまの御目覚め、愛する旦那様のために朝日が寝室に射し込むとともに起床…なんてこともなく、太陽はすっかり真上に昇っても起きる気配はありません。そもそも引きこもり気質の奥様は朝日をたいへん嫌っており、二人の寝室は地下にありました。勿論新居も地下です。玄関は暁にいたころ同様洞穴でした。

寝汚い奥様は朝は遅く夜も遅く、でも傀儡の身なのでお肌の心配をしなくてすみます。
栄養のあるものを摂取する必要も、太りすぎたとダイエットを気にする必要もありません。
元相棒で未だにパシリに使われているデイダラは言います。
「まさか旦那が傀儡になったのって、年老いて白砂に愛想つかされるのが嫌だったからじゃ…」
デイダラの言は暁の皆の気持ちを代弁していましたが、サソリにチャクラ糸で縛り上げられ、掌から炎を噴出されていても助けようとするメンバーはいません。「薄情もの―――っ!!」デイダラの叫びも右から左…。

憐れデイダラ、彼の叫びは防音も完璧なアジトにおいてその場所を他者に漏らす要因にはなりませんでした。


ところで何故未だに暁と親交があるのか?
ほぼ一方的に暁を脱退したサソリでしたので、当然御咎めがありました。

だけどこの時、今まで自我はあれど、動くことが不可能だった白砂は色々あって悟りました。自分は築いてはいけないフラグを築いてしまったと。
襲い来る暁の人間すら、彼の砂鉄の前では塵に等しい。ちぎっては投げ、ちげっては投げ、大活躍です。益々惚れ直しているサソリさんに気づいていたら、深いため息をついていたことでしょう。



白砂と瞬身したサソリがまず向かったのはデイダラの前でした。カカシの神威で片腕を失ったデイダラの前に突如現れた二人に驚いた木の葉。一瞬サクラたちのことが頭に過り、「二人はどうした!!」とカカシたちは怒鳴ります。

そんなのしったことかと、「た、助け何ていらねぇーぞ、うん!」とかなんとか狼狽えるデイダラに向かって、サソリさんは一方的に指輪を投げつけました。「あいて!」と間抜けな聲を上げた相方に向かって

「後で辞任届を郵送するとリーダーに伝えとけ。俺は脱退する」

真顔です。真剣です。一点の曇りもない。
唖然としたデイダラも事の重大さに気づいたのか「どういうことだ」と険しい表情です。
暁では裏切り者には死、それが掟です。自分よりも長くあの組織に在籍しているサソリが知らないはずがない、寧ろ一番多く部下を持っているため、裏切り者の粛清もしっかりやっているのを相方の彼が知らないはずがありません。それでも問います。

敵の雰囲気が何か可笑しい、カカシはナルトを諌めて様子を伺います。そして後方から駆け寄ってくるサクラたちの姿を認めてほっと息を吐きます。

この状況を理解できるものはいません。

「どういうことだと?………決まってんだろ…これからは


愛に生きるんだ」


寿退社だとも付け加えました。隣で相変わらず死んだ目で虚空を見つめていた名前の片方しかない腕に自分のそれを絡め、作られた温度の無いはずの頬を赤く染めて「うっとり」この表現が似合う表情を浮かべたサソリは本気でした。


ひゅう〜と三者の間に風が吹きます。
ボタリ、白砂の不安定な身体がこの緊迫した空気を壊すように、風の微弱な衝撃で大き目のネジが下に落ちました。

それに視線が集まります。カカシもデイダラもナルトも、追いついたサクラもチヨバアも、そして陶酔していたサソリの表情は赤から青へ変化。

思わずカカシ達が両耳を塞ぐほどの奇声を発したサソリは再び瞬身でその場を後にしました。残されたデイダラとナルト達が復活するまで時間がかかりました。


 皆さんお忘れでしょうか?
今でこそ最年少で影に就任したのは五代目風影我愛羅ですが、若き影で当時最強と謂われたのはこの方白砂です。初代、二代目、四代目と尾獣の力に頼った影とは違い、三代目風影の彼の時代、守鶴は封印されたままであり、風の国の他国への抑制は白砂の力が占めていました。サソリに傀儡にされたときの彼は日頃の激務によって疲れていました。チャクラ不足です。さあ寝よう!そう意気込んでいた矢先の襲撃、為す術もありませんでした。今も昔も彼は布団に入ると気が抜けるのです。

どういうわけか、実はただの人傀儡の作り方とは違う、サソリ同様意志のある人傀儡として改造された彼が自分の意志で身体を動かせるようになったのは幸か不幸か、サソリが死期を悟ったチヨバアさまとの戦闘中です。

長い間、白砂との新婚生活を夢見ていたサソリの行動は早かった。デイダラたちの前から瞬身で消えたあと、あろうことか今がチャンスだと砂隠れの実家に侵入したのです。隠居したとはいえ歴戦の忍びであるチヨバアさまの家には世にも珍しい、サソリですら中々手に入らない材料が揃っていました。

瞬身で二十年ぶりに帰宅したサソリは我が物顔で部屋にあるものを使い、壊れ物を扱う様にそっと寝かせた名前を直し始めます。ついでに欲しかった武器を自分のお腹に収めます。二人に麻酔は要らないですし。とはいえ、


「(気持ち悪い・・・ってか何でこの子普通に砂の里に帰ってきてんの?!)」

一方的に体を弄られている白砂の思っている疑問は正しい。里には猫一匹入る隙間がない。表も裏も辺りを警戒しています。その原因たる男が今、こうして里にいる。

悲しいかな、自由に動かせるようになったとはいえ、二十年近くその身体を操っていたサソリは白砂の身体を自由に使役できました。口では「頼む」といいつつ、彼の右手はしっかりチャクラ糸を紡ぎ、死んだ魚の目をした白砂の意志関係なく、砂鉄の翼で空中飛行による砂隠れの里侵入に成功しました。
つい三日目の侵入者が飛行していたことなど忘れたのかという白砂の突込みも虚しく、「ふはははは!!!人がゴミのようだ!」というサソリの高笑いすら警備の忍びには聞こえていないようです。



無いはずの胃がいたくなる白砂でした。


サソリによって壊れた身体も復活した白砂.
収めるものを収め終えたサソリに一言、財産を取りに行きたいと告げます。
勿論オブラートに包みました。折角不完全とはいえ自由の身です。下手なことをして棒に振るなどあってはならない。

何故か上機嫌のサソリとともに、またまた本人不在のことを知っているからこそ、正面から堂々と侵入した現風影室にて、昔隠した金庫から必要なものを貰って出ていきました。


「(ああ、これでもう後戻りできねぇ……)」


泣きたい、でも彼の人生はまだ終わらない。




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