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亜門視点
俺には兄が一人いる。
俺とは違う赤い髪はよく見慣れた血液よりも鮮明で美しい。
俺とは違う金か琥珀に近い色の眼は鋭く、射抜かれただけで戦慄するのだろう。
俺と似ているところは何一つない、実兄、亜門名無し。
俺が喰種を憎むようになってからも、兄さんは変わらなかった。
そう、兄さんは、綺麗すぎた。
俺と並んだ兄さんを見ると同僚は口を揃えて、兄さんの方が恐ろしいという。
だが本当は、兄さんは俺が知る誰よりも優しい。誰かを恨むことの虚しさを、復讐に駆られて身を焦がす者の痛みを説く姿に、幼い頃の俺は自然と兄は自分とは違うと自覚した。
だが、あいつが俺たちを裏切ったときも、ただジッと、心無い大人たちから生き残った俺たちを守ってくれた。
あいつも兄さんに対しては息子ではなく、友人のように接してしたような…………………いや、止そう。
兎に角俺の兄は不思議な人だった。昔も、今も。
ザアアと降り注ぐ雨を受け、俺は気が付けば兄の自宅の前に佇んでいた。
(どうして、ここに…)
危険な目に合わせないように極力避けていた場所。いつでも来い、と手渡された合鍵は生憎今日は持っていない。
何時までだろうか、暫くそうしていたら、俺の名前が聞こえた。
「鋼太郎?どうしてここに」
「…兄さん」
その顔を見たら圧し掛かっていた不安から解放されたかのように、俺の眼からは涙が流れた。
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