喰種世界でのお兄様 [ 1/3 ]




忍者の卵が活躍する世界じゃない方の超危険世界から脱出できた俺は有頂天だった。

可愛い弟も出来たし、残念ながら今生の両親が死んでからは孤児院で暮らしたけどさ。神父さん優しかったし、何より久しぶりの現代だ。楽しまない筈がない。

あ、勿論ミナトが可愛くない弟ってわけでもないし、ダンゾウ先生たちが嫌いなわけでもないから。ただただ俺は生きるか死ぬかの常に死と隣り合わせな世界よりも平和な現代が好きだっただけの話しである。


そう、“平和”な現代だったならば…



「兄さん、兄さん…ッ!」


はい、平和な現代?何それどこにあるんですかーな心境です。
この世界は平和じゃない。寧ろある意味で死と隣り合わせだったわ。よく考えると両親の死因の聞いた時点で疑問に思うべきだったよ。


「喰種」という生き物を聞いたことがあるだろうか。人の姿をしていながら、群衆に紛れ込み、獲物(人間)を狩る。その死肉を喰い漁る怪人こそが「喰種」と呼ばれる存在である。

かつての俺はあまりなかった。だが今の俺には覚えがあり過ぎるくらいあった。というかぶっちゃけ優しい神父さんこそがその喰種だったとか何それ怖い。

神父さん=喰種が判明したのは簡単である。証人がいた、そう、俺の弟の鋼太郎である。
食事(=人肉)中の神父さんを見ちゃった弟は、それはもうショックだったらしい。当然だ。喰われたのが友達っていうのもきつい。だが俺は最低なことに弟のように可愛がったその子よりも自分が喰われなくて良かったと安堵したのだ。

まぁ俺の最低チキンハートは今更だから置いといて、神父さんが連行されてから弟は変わった。


昔はもっとこう、某青狸の国民的アニメに登場する出木杉君みたいな子だったのに、喰種に対して昔の我愛羅君みたいに目が合ったら殺す!って思考になってる。CCGに就任し、超エリート街道まっしぐらどころか全力で突っ込んでいったら出世してましたーな弟の背中を暫く茫然と見ていて十数年経た現在、俺は思った。

あれ?もしかして俺(一般人)は逆恨みした喰種や妬んだ同僚に殺されるんじゃね?と。
それから体を鍛えて案の定襲ってきた喰種を拳一つで沈められるくらいには逞しくなったよ!でもせめて忍術が使えたらこんな苦労しなかったのに…!

あ、因みに弟が通った学校は行ってない。両親の遺産あるし、弟を大学にだしてやるくらいの金はバイトしてでも稼ごうと思っていたのにあの子ったら勝手にCCGの学校に行っちゃったんだよね〜。


バイト先の店長の好意で、喫茶店勤務な俺は帰宅途中、濡れ鼠とかした弟を発見→今自宅。
そして何故か泣いている弟。おい、ほんとどうした。お前に何かあったらコクリア?とかに収容されている神父さんが暴れそうだから自分大事にしなさい。


「……泣くな」

持ってきたタオルで多少強めにゴシゴシと頭を拭く。ミナトよりもガッシリした肉体と高身長の割に大人しくしている様子が返って可愛いと思ってしまう。

そう、可愛いのだ。見た目大人で超エリート様にも関わらず、コイツの心は子どもの時のままだ。ずっと止まっている、純粋でひたむきな心。
両親が死んだ時じゃない、止まってしまったのは――、


「…いや、違ったな。もう暫く泣いておけ…ああ、それから、
おかえり、鋼太郎」

「うっ、ぐすっ、ぁ……うん、ただいま兄さん」




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