木下闇 | ナノ


▽ うちは


華麗なる(傍迷惑な)愛の(闇堕ち)一族


身内大好きうちは一族は古くより恐れていることがある。
曰く、「一人っ子なら外部の人間、二人兄弟なら依存関係に気をつけろ。だが最も危険なのは異性同士の兄弟が揃った時である」

過去数百年を遡ってみても、うちはの長い歴史の中で男女の兄妹が揃ったのは始祖の代のみ。だからこそ、現在の戦国の世で宗家の5人兄弟に新しく加わった末っ子の性別を聞いた現当主がうっかり我が子をとり落としそうになるほどの衝撃だった。
そう、唯一の「娘」だったことに現当主・うちはタジマはこれからどうなるか不安でしかたなかった。




ゆっくりと瞼を開く。朝だ。

障子越しの朝日に起こされ、ぼんやり見つめた瞳に映るのは見慣れた天井…だが動けない。


「…重い」


双眸に映るのは拘束する腕、腕、腕。大小長短様々な三人分の腕の重さが圧し掛かるが、こちらを押し潰さないように加減されている。

両脇に二人、腹に一人。計三人。
隣の隣の部屋に一人、そのまた隣に一人の気配が感じられる。

ハァ、と溜息をついた。



 時は今より数年前、オギャーと生まれ落ちた瞬間よりも前に遡る。

ウキナという少女には昔から「前世」の記憶があった。今の彼女が覚えている前世は精々二つ三つだが、現代日本の旧家に生まれた記憶が一番古いだろう。

女の身ゆえに跡継ぎとされなかったが、彼女は在籍していたエスカレート式の女子高で築き上げた人間関係を上手くつかい、学園、そして経済社会を次々と牛耳っていった。

彼女が携帯のボタンを一つ押せば最終的に何百人もの人間が路頭に迷うので悪魔のピタゴラスイッチとして恐れられたほどウキナという少女は恐ろしい人間だった。

そんな彼女だから死因は後ろからグサリと刺される…へまをするわけもなく、普通に持病の悪化で病死した。


次に生まれ変わったのが世界的に有名な暗殺一家で赤ん坊時代からヘビーな人生を送り、常識=ゾルディック産に流石の保護者(母親を除く)が危機感を抱いて「外の世界を見てこい」と謂わんばかりに放り出された。この時彼女は5歳だった。

その時最初に出会ったのが三男の弟のように底抜けに明るく芯のある同年代なら良かった。それでなくとも村人Aくらいならもっとよかった。
実際に出会い後に心友とまで呼び合う仲になったのは、当時も指名手配されていた某旅団の頭。

彼女の間違った常識がまともになるどころか悪化したのは言うまでもない。

結局、そこでの人生も骨の髄まで暗殺技をと暗殺者としての心構えを教え込まれ、二十数年後その生に幕を下ろした。


そして現在、どこぞの愛憎一族の末っ子に生まれたのである。骨の髄どころか魂にまで刻まれたらしい――前世で身に着けた能力はそっくりそのまま今生でも使えたのが幸いか。


視線を横にずらせば右脇には長男のハルキ。柔和な容貌に反して意外と過激な面がある男だ。
左脇には五男のイズナ。口を開けば大の大人も青褪める毒舌の嵐の一番年の近い兄。
そして最後に両脇を兄弟にとられた次男、マダラ

そう、うちはマダラがいた。


(初めから現代に戻れるとは思っていませんでしたがまさかあのNARUTOの、それもうちはマダラの兄妹だなんて…)


眠っているマダラはただの生意気そうな子供にしか見えなかった。
しかし彼は目覚めれば鬱陶しいほど自分に構ってくるのは経験上明らかだった。


うちはマダラはブラコンである。だがそれよりも重度のシスコンでもあった。

それはもう、ブラコン一族と現代の数少ない友人が揶揄していただけあって、最初から凄かった。男五人の中に生まれた紅一点だったせいか、もう、妹ラブどころか妹と書いて世界と読むレベルやどこぞの教祖でも祀り上げるレベルである。


 勿論マダラだけでなく残りの兄弟全ての世界は私を中心にして回っていると云ってもいい。そのことを察したのは生後三日目の事だ。なかでも今引っ付いている三人は異常。これでも長男は先日結婚したはずである。なのに何故ここにいる?


はぁと溜息をついたウキナはそれでもまだ前世でただ一人だけいた兄のヤンデレ具合を思いだし『まああれよりはマシか』と我慢する。




――だがしかし、冷淡な眼差しを彼らに向けるウキナは知らない。近い将来自分が変わることを。心の底で愛情に飢えていた彼女がうちは一族の重た〜い愛情にどっぷり嵌ることを。


当初の彼女には新しい兄弟たちへの愛情なんて全くなかったのだから。






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