▽ 似た者夫婦のお話(過去)
本日快晴、だが二人の少年の心は暗かった。
「ああ、とうとうこの日が来てしまった…」
「言うなヒルゼン。誰も待ち望んでなどない」
「だってよ。はぁ、どうか今月も安全でありますように」
「祈るな」
二代目邸は里の郊外に建てられていた。
和風チックな家屋が立ち並ぶ街中を通り過ぎた先にあるそれは、完全なる洋館。規模は小さいがウキナの希望で前世の実家をモチーフにした城であった。
三階建ての屋敷に住み込みで働く人間がいるのは妻であるウキナが病弱でいつ倒れても対処できるようにするためと夫婦そろって里の重鎮のため忙しさで家事などする時間がないから。この世界では珍しい建物に興味を持つものも少なくなく、そうなると二階には客室が複数用意されていた。
里の図書館よりも充実した書籍が揃う書斎、最新の機器を上回った三種の神器が設備された空間、国宝級の品物が飾られた美術室、室内でも忍術を使用できる頑丈なトレーニングルーム。だがそんな素晴らしい室よりもこの家の夫婦が多用しているのは他でもない、地下の研究室であった。
地下への階段を下るとそこには不気味な実験の痕跡が色濃く感じられる空間が広がっている。しかも夫婦別々の研究室を所持している。上の階にある二人の部屋はどれも同室で自室なぞ『要らん』『要りませんね』と答えていた癖に地下の研究室に関しては話は別とばかりに兄である(ウキナにすれば義兄)柱間に作らせた。
いくら天下の火影様といえども地下に籠って妖しい研究をしていいわけがない。月に一度の調査に抜擢された猿飛ヒルゼンや志村ダンゾウは毎月その日になると頭を抱えたくなる気持ちだった。
ここで本来そういったことを担当している警務部隊に仕事が回されないのは、他でもなくウキナ至上主義の人間しかいない連中は当然のようにその夫を嫌っており評価が平等ではないからだ。
彼らはウキナが悪質な実験をしていても見て見ぬふりをするが、扉間の粗探しのためなら写輪眼の使用も厭わない。マダラと袂を分かっても、ウキナだけは裏切らない、それがうちはである。
要するにうちは側からすれば極上の任務だ。抜擢されなかったうちはの恨みつらみの篭った視線を受けるそんな仕事、それこそがこの調査だった。
扉間の弟子でありウキナと関わりのあるヒルゼンとダンゾウがそれに抜擢されたのも仕方がない。誰もがやりたくない仕事である。
「っよし!ダンゾウ、お前は扉間先生を頼むぞ!」
「はあああ?!ふざけるなヒルゼン!お前今月の先生がどれだけ地下に籠ってたか知ってんのか!?絶っ対やばい実験やってるぞ!変われ、俺がウキナさんの方に行く!」
「っちょ、お前いつもウキナ様のこと苦手だって云ってただろ!俺が気を利かせたときくらい素直に行けよ!」
「嫌だ!」
「俺だって嫌だ!」
「……お前たち人の家の前で騒がしいぞ」
通常よりも低い声。それが誰かを考える暇もなく硬直した二人は壊れたブリキ人形のように首だけ回して振り返る。
あ、終わった。二人がそう悟るのにさして時間はかからなかった。
「丁度いい、試したいものがあったんだ。お前たち俺の室に来い」
普段笑わないヤツほど笑うと怖いを体現した男があくどい笑みを浮かべている。
「え、遠慮しまー『来いと云ってる』っははははははい!!!」
蛇に睨まれた蛙宜しく一睨みで大人しくなった二人の首根っこを引きずりながら扉間は薄ら笑みを浮かべて、地下への階段を速足で降りて行った。
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