▽ 蛇の不幸
「げ、」
「げ、」
「あら!」
最初に嫌悪感むき出しの顔で男の存在に気づいた妙齢の美女に続き、その男は美女に対しては「ウフフフ」と怪しげな笑みを零していたがすぐに背後から近付いてきた少女の存在に気づき、美女こと綱手以上に嫌っそうに顔を顰めた。
「って、ウキナ姉さん?!」
最近当たりが良いのはこの大蛇丸と再会したからだろうと思っていた綱手は色んな意味で顔色をコロコロ変えた。
ニコニコと微笑む彼女は綱手とは違ったタイプの美貌を持つ、祖父の弟の奥さん、といっても『今』は漸く二桁の年齢になったばかりの少女だ。それでも嘗て慕い憧れた存在には違いないため「姉さん」と呼ぶのだが。
「どうしてここに・・・」
「一寸貴方にお願いがあってきたのだけど…先客?」
「こんな奴後回しにして結構です!」
「ちょっと!?」
大蛇丸<<<(越えられない壁)<<<ウキナ
綱手の即時の返答に異を唱える大蛇丸をまるっと無視してウキナは車いすを前に進めた。因みにカカシは今パシラされていていない。
偶然探し人を見つけたウキナはカカシとの待ち合わせ場所から移動していた。
今頃血相変えて探し回っているカカシを知っていても、謝る気はない。それよりも気になったのは大蛇丸の真っ黒で所々紫がかった両腕だった。
「ところでその腕どうしたんですか?」
「あんたのとこの馬鹿兄貴にやられたのよ」
今更何を、と吐き捨てた大蛇丸にキョトンと目を瞬かせるが、思い出したのか「ああ、あの時の」と呟く。
「でもあれって自業自得でしょう?」
「ほんっとムカつくわね!」
その澄ました顔が腕を奪ったイタチとそっくりで余計苛々すると眉間に皺をよせる。イタチは天然でやることが多いが、ウキナは自覚している面があるため余計達が悪い。
「助けて綱手ちゃん、変態さんが怖いです」
「よし、任せろ!」
「あんた今の会話全部聞いてたでしょ!?」
ギュッと拳を握る綱手に大蛇丸の警鐘が鳴り響く…いや、それ自体はウキナの存在を認識した時からずっと鳴っている。
「やっと見つけ……って、大蛇丸?!!」
その声に大蛇丸は顔を輝かせた。やっと私らしい態度が貫ける!そう思った彼は出来るだけ不気味にゆったりと振り向き、
「なんでそんなに祭りを満喫してるのよ!!」
叫んだ。
そこにはカカシがいた。
その両腕には出店で購入した定番のものから変わり種まで食べ物が揃っている。
「焼きそばのキャベツは取り除いてください。後で兄さんにあげます」
「はいはい」
いそいそと焼きそばの入ったパックからイタチ用のキャベツだけを抜いていくカカシにはもう大蛇丸の存在を忘れられている。
「こっちを見なさいよ!!」
「うちの孫を穢さないでください」
「失礼でしょう!」
「そう、ですか?」
「なんで疑問形なの!?」
同意を求めようにもここには大蛇丸とウキナを除き、綱手とカカシしかいない。つまり味方ゼロ。シズネ対策にカブトを使ったのが不味かった。だがカブトがいたとしても大蛇丸の味方であるとは言い切れない。
一人騒がしい大蛇丸をジッと見つめていたかと思えば、唐突にウキナは叫んだ。
「嫌っ、襲われるー(棒読み)」
「なんですってぇぇぇぇぇぇぇッ!?」
大根役者も吃驚な心のこもっていないシャウトに大蛇丸は二重の意味で驚いた。
誰が叫んだのか、そしてどうなるのか、だ。
「あ、ムンクの叫びのようですね」
にっこりと笑みを浮べて大蛇丸を見つめながら、ウキナは楽しげに言った。腕を伸ばす彼女の願いに応えるべくカカシは持っていた箸を置いてそっと抱き上げる。歳の割に小柄なウキナはすっぽりとその腕の中に納まった。
カカシの角度から見えたその双眸はおもちゃでも与えられたように輝いている。ウキナが彼を弄ることに快感を覚えていると察してカカシは大蛇丸に同情した。だが助ける気は毛頭ない。
ウキナは反応にくすくすと楽しげな笑い声を上げつつ、そのまま二ヒリと妖艶な笑みに変えて、カカシの首に甘えるように己の腕を回す。
「ほら早く逃げた方がいいですよ?私の悲鳴を聞いて一分以内に飛んでくるのがイタチ兄さんですから」
「それどんな特技よ!!」
おぼえていなさい!と吐き捨てて脱兎のごとく逃げ出した大蛇丸。
その背中からウキナの指に向って伸びている糸にカカシは気づいた。
「それ、」
「とっても素敵な魔法の糸です。昔のお友達が教えてくれました」
にっこりといい笑顔で告げられたそれに深く尋ねることはしたくないと「そっか、よかったね」と返すカカシも何だかんだで最近図太くなってきている。
ウキナは心中で「この分だとうちはオビトの生存と今までの行いを暴露しても突っ立っているだけの役立たずの案山子にはならなそうですね」とか思案しているのでそれがいいこととはいえないが。
「俺の妹を泣かせたのは誰だァァアアアア!!!」
「泣かせてないわよ!私の方が泣いたわ!!」
遠方から凄まじい破壊音が届いた。
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