木下闇 | ナノ


▽ 後、4



避雷神で瞬時にウキナの目の前に現れた男にイタチは全く躊躇なく須佐能乎が握る十束剣を振り下ろした。一撃じゃ不安だったので天照も使ったが舞い散る屑が一カ所に集まるのを見てつい舌打ちする。


「っち」

「何をする」


奴が穢土転生体だということがこれほどまで憎たらしく思ったことはない。
白眼並の視野と近未来まで見通せるというウキナの念能力にはるか遠くの戦況をリポートされていたイタチは自分の勘が当たったことで不機嫌だった。それが表に出ているのかギョッとした視線を自来也から向けられる。

品行方正、礼儀正しいイタチにしてみれば珍しいことだが、妹が関わったイタチを知る暗部や被害者たちには見慣れた姿だろう。

復活した扉間は大蛇丸に操られているはずなのに、口元に笑みを浮かべ、両腕を広げてながら叫んだ。


「会いたかったぞ、ウキナ!!!」

 寡黙な印象を与える冷淡な顔を一変、頬を高揚で赤く染めて穢土転生特有の黒い瞳の瞳孔を開いて凶悪な笑みを携え、ウキナに抱き付こうとした。一見すると美少女に襲い掛かる変態だ。

かの偉人の突然の変わりように呆然とする周囲を余所に、ウキナはその顔を正面からジッと見つめると、聖母の様な暖かな笑みで受け止めて


「かっ消えろ・・・!!」

「ッ!!?<水遁・水龍弾>ッ」


飛んできた彼女の念で作られた炎を回避すべく、思わず踏み出そうとした一歩に体重をのせ、反のめりになりかけながらも<水龍弾>の勢いを利用して後退した扉間は苦々しい顔で云った。


「おい、やめろウキナ。マダラと間違えていないか?俺は扉間だぞ?」


それに対してまた火遁を繰り広げるウキナは笑っているのに目が笑っていない。

彼女は彼を愛しているし、今生に転生してから彼が復活することを知っていたため会うのを楽しみにしていた。たが、それ以上に扉間に対して怒っていた。だってあれだけやめろと言ったのに裏で勝手に進めていた扉間の政策のせいで今生でもうちはのために苦労したのだ。

あれだけそうならないように手を打っておいたにも関わらず。
何より過去(マダラ)のせいで一族のために人生捨てかけイタチが泣いたことが許せない。マダラ兄さんは一発、扉間さんは三発は殴ろう、勿論<硬>で。

一撃で山一つ吹き飛ばす威力を持つ拳を仮にも夫に向けようというのだからウキナは本当に彼を愛しているのか疑問である。予定を変更して別の能力を使用しているが、段々昔の熱く激しい戦闘を思い出してか愉しくなってきたウキナたちは里の事も木の葉崩しのことも周りの事も気にしない。

目の前の男にしか集中出来ない。この二人の時間を邪魔するものは殺す、と愛憎が激しい一族の血を忠実に曳いているだけあってかウキナの愛も激しかった。
もしくはゾルディックのヤンデレも忠実に受け継いでいたのかもしれない。


扉間の生み出した水遁はそれを防げたが、常人のそれを上回る威力だ。今の時代の上忍なら一撃でアウトである。腐っても嫁馬鹿でも流石二代目火影というべきか。


「ウキナァァァァァァッ!!!」

「扉間ァァァァァァァッ!!!」




二人だけの世界、即ちイタチは邪魔もの。
大好きなウキナに放置された彼はフルフルと肩や拳を震わせていた。ついにはボロボロと大粒の涙を零している。流石の自来也も無視するわけにはいかず、おずおずと話しかけて


「お、俺の、俺の……」

「落ち着けイタチ!気をしっかりもて!」


男の癖に泣くな!と言いたいところだが、普通の涙ではなく血の涙を流されれば言えない。自来也はそこまで非道ではない。


扉間とウキナは輝いていた。

時折焦った表情を浮かべる扉間を余所にウキナは輝かんばかりの満面の笑みで追い打ちをかけて。長年連れ添った夫婦だからこそお互いのほんのわずかな動作から次の行動を予想できるのであって、また穢土転生で事実上不老不死の彼だからこそ、例え腕が吹っ飛ばされようと心臓を貫かれようと全身火だるまにされようと平気なのだ。
自来也がイタチを慰めることはできても無意味な戦いを止めに入れないの自分にも被害がいくからだ。

だがそれでも扉間よりもウキナは強い。例え足が不自由でも、尾獣並のチャクラとハンター世界の王メルエム並のオーラを持っているのだから長時間の戦闘さえしなければ最強だ。

昔も、今も…。


「アハハハハ!貴方が泣くまで、殺すのを、止めません!!」
「ホゲェェェェェッ!!」


里中に扉間の悲鳴が響き渡った。







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