木下闇 | ナノ


▽ 後、10



試合を観戦するウキナを見てデレデレと顔を緩ませるイタチはご機嫌だった。その隣でゲッソリと疲れ果てたサラリーマンのようなシスイを余所に。

まだ若いにも関わらず年中苦労人オーラを発している彼が深い深〜い溜息を吐きだしていてもイタチは全く気にしなかった。


 時は今より一刻ほど前に遡る。


シスイは会場に着いた二人に『遅い!』と怒鳴った。彼是数時間も彼は待ちぼうけをくらっていたのだ。

まだ時間がある、とイタチの言によりブラブラと寄り道をして予定より会場に着くのが遅れたうちは兄妹はシスイの説教も右から左に流して恋人同士のようにイチャつく始末。
『キケー!!』と再び叫んだ。憐れ。

そしてシスイは梃子でも動かないぞとウキナの隣で写輪眼を回している男に『任務に行くぞ』とは到底口にすることができなかった。



 イタチは可愛い弟の晴れ舞台を最愛の妹と観戦するのを一か月以上前から楽しみにしていた。……但しサスケの中忍選抜試験の受験が決定したのも、本戦まで勝ち進むのも休暇を申請した当初では判明していなかったが、夕飯の席で「そろそろ中忍選抜試験があるな、サスケは受けるのか?」と言い出したフガクにウキナが「イタチ兄さんの時は見れなかったから見たいわ」と云ったのがそもそもの発端である。
 
 可愛い娘の願いを叶えるべく、本人の意志ではなく担当上忍の推薦が必要なためフガクはカカシと遭遇するたびに無言の圧力をかけたり、イタチもイタチでカカシに「あと一つでDランクも8つ目ですね」と任務の度にカウントダウンするように呟く(という嫌がらせと脅し)をしてきた。宗家の二人がそれだから自然と一族の者全てにそのことが伝わり、結果うちは一族全体で始まる無言の訴え……カカシの胃が悲鳴を上げるのは早かった。サスケたち第七班が中忍選抜試験を受けられたのは彼らの働きが強いかった。


月一のお茶会(またの名をウキナの三代目世代遊び)でそのことを聞いた三代目が推薦の時に腹部を押さえ必死に話すカカシを同情したのは言うまでもない。


しかしながら状況は一変している。大蛇丸という予想外の人間の襲撃に第二次試験で第一級警戒態勢をとったのだ。里でもトップクラスの実力者であるイタチがこの非常事態に暢気に休暇を楽しむなんて許されるはずもなく、暗部の隊長として大名の警護を言いつかったが・・・


『老い先短い年寄りの護衛?そんなもの何の意味もない無駄だ、無駄無駄!!ウキナより優先すべきことなどあるはずがない。例え大名が死んだとしても明日は来る、この世の生きとし生けるものたちはそのことで明日が変わる筈がない。ただ自然の摂理、流れのままに次の大名が決まると同時に死んだ大名は次第に人に忘れられていく……だがそれに比べてウキナが消えれば世界は終わるだろう。明日はないだろう。絶望したあらゆる人間が狂うだろう…そして人々にウキナという神にも等しい人間をその心に刻み永遠に忘れることなく地獄で嘆き悲しむ…そう、ウキナとその他大勢を比べることすらおこがましい。そしてそのウキナを俺以外の誰が守れるというのだ?この里において容姿端麗・才色兼備、全てを兼ね揃えた完璧人間は俺とウキナとサスケ以外の誰がいようか、いや、いまい。だが幼い二人は庇護されるべき存在だから矢張り俺以外守護できる人間はいまい。したがって俺はその任務を拒否します。』


この男、真顔で、それも上役に呼び出された席で言い切った。

引き攣った顔をした三代目は嘗てよく似たことを云った元上司で師を思いだし、遠い目で虚空を見つめた。

隣にいた同期も同じ人物を思い浮かべたのだろう、あのダンゾウですら苦虫を噛み潰したような顔する。そもそもダンゾウはウキナが関わる案件は悉く脱兎のごとく逃げる選択しかとらない。



 そんなこんなで周囲からうちは関係で困った時の手段・シスイに押し付けよう!が発動され、当日の説得に至る。が、その苦労人のシスイに全てを察したイタチが「月読!」と油断したところで一族が誇る高等幻術を掛けた。一応これでも彼はシスイを兄のような親友だと公言している。一応。

三日間、異空間で如何にウキナを守ることに意味があるかを事細かに説く(=シスコン話)イタチに付き合わされたシスイが目覚めた時、現実ではすでに試合が始まっていた。今更大名の護衛としてノコノコ出ていくわけにはいかないし、そもそもまたイタチに気絶させられるのが落ちだった。



そして冒頭に戻る。





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