木下闇 | ナノ


▽ 紙切れ一つで認めたとは思うな

鬱陶しそうに自称親友らしい男を見つめる。マダラ〜と間延びした声になんだと返す、男は笑えばさぞ美しいだろう顔を不機嫌そうに歪めた。



「そんなに顔を顰めて……折角の美人顔が台無しぞ」

「そうか」

「そうか、って……いつか扉間みたいになるぞよ」

「……」


それは嫌だと思うが何が悲しくて何もないのに笑わなくてはいけないんだ、と一層顔が顰まる。

同じようなことが扉間にもあり、彼の場合も柱間から「それじゃマダラみたいぞ」で仏頂面しか作られなかった。


実弟と義理の弟。マダラと柱間は歳が同じだが、扉間とマダラの妹のウキナが結婚したことでマダラは柱間の義理の兄弟となっている。身内のよく似た反応に、内心でやっぱりこいつら似てるぞよ、と本人たちに聞かれれば半殺しにされかねないことを思っていた。


そしてところで、と急に真面目な顔で話しかける。
柱間の真剣さが分かったのかマダラも顔を戻した。


「ここ最近、物騒な噂があるのは知ってるか?」

「『噂』?――ああ、誘拐事件のことか?」

イズナに聞いた、と答えたマダラに柱間は神妙そうな顔で頷く。

「そうぞ。木の葉隠れの里(うち)の創設に続いて各国でそれぞれ隠れ里が出来上がり、長く続いた戦争も納まった弊害だろうな。戦後の生活難の影響で誘拐事件が多発し、人身売買を生業とする輩がいるのは何時ものことだが……どうやら今回は従来よりも厄介らしい」


「と、いうと?」

「今までいがみ合っていた一族が一カ所に集まるのだ。親を、兄弟を、恋人を、子どもを、大切なものを失った悲しみと憎しみを捨てきれず、未来のために手を取り合うことを拒んだ人間が集落を抜けて、金で雇われそういった輩に付き従っているそうだ」

「…確かに厄介だな」

確か誘拐されたのは村一つ丸々全ての住人だったはずだ。一介の小悪党にしては随分と大胆な行動だと思うがそうでもしなければ生きていけないのかもしれない。


「だから木の葉(うち)にも大名から周辺の村々に暫く警戒態勢をとるように命じられた。俺たちは里を守るため残らなければならんが、扉間とイズナには各村を回っても貰おうと思う」

「げ、それって――」

二人の書類仕事は俺たちがやらねぇといけないじゃないか。デスクワークが好きとは言えないマダラの嫌っそうな顔を前に、お前より俺の方が嫌ぞ!と叫ぶ。

普段は柱間より多くの政務に取り掛かっている扉間は里をよりよくしようと彼是新しい事業に手を伸ばしている。要するに柱間の仕事が倍近く増える。暫くは仕事場に缶詰だと溜息を洩らす彼にマダラは俺だって多いわ!と述べる。


「ん?だってお前にはウキナがいるではないか」

柱間の相談役は扉間1人だが、マダラにはイズナとウキナ。扉間みたいに『休まず筆を動かせ』と休憩を与えず永遠と仕事をさせる鬼とは違い、マダラに適度な休憩を与えながら無理なくトントンと仕事を終わらせる二人を見て、何度交換してほしい!と願ったことか。

片や弟は仕事の鬼。片や弟妹は天使。そう公言している木の葉隠れの里長達だ。


柱間の問いにマダラは渋柿を喰ったような顔をした。

「ど、どうしたぞ!?」

「うっせぇ……ただ、」

「ただ?」


「…最近、ウキナの体調がまたよくないみたいなんだ」

ポツリ、零れた不安。医者曰くいつ死んでも可笑しくないほど虚弱な身体を持つ最愛の妹の青褪めた顔で紡がれる「大丈夫」に心はいつだって落ち着かない。ああ、今こうして離れている時間すら心配でたまらない!

「で、でも扉間はそんなこと一言も『あんな鈍感野郎が気づくはずないだろう!』…そ、そうか。だが一応二人は夫婦なんだし」

おずおずと義妹と弟の関係を口にするが、それが余計にマダラの苛立ちを煽った。

「俺は認めない」


何て奴だ。堂々と言い切った。
ここまで妹愛拗らせていると、逆に清々しい。

あの扉間が本気でウキナに愛情を伝えているが、マダラのこの重すぎる愛情に慣れきった彼女は、果たして一欠けらでも弟の愛を理解しているのだろうか?悲しいかな、楽観的な柱間でさえ肯定できない。

逆にウキナが扉間を好いて、うちはらしい愛情を奉げるようになれば扉間は堪えられるのか…?いや、案外嫁にベタ惚れしているアイツなら寧ろ大喜びで受け取るだろう。弟の幸福を願う兄としてはそんな未来を期待したいが、目の前のシスコンには絶望的な未来らしい。

柱間に出来ることは密かに扉間を応援しつつ、精々マダラの何かの琴線に触れて、いつかとんでもない行動を起こさないように見張ることだった。


12話




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