▽ いつか、と約束
すっかり里中の灯が消えた頃、うちは邸には主であるマダラの部屋には変わらず灯が点されていた。
イズナがそっと襖を開けると、いつものように仕事に熱中している兄の姿はなく、代わりに少し大きめのアルバムを大事そうに抱えながら写真を見て口元を緩める姿があった。
背後に回り込んで覗き込めば、そこに写ってたのは小さな生まれて間もない赤ん坊。
イズナはおぼえていないが、イズナの腕の中からカメラに目線を送る愛らしい女の子。
幼いウキナの写真が限界まで貼られているアルバムが数冊。
布団で眠っていたり、花を掴んでいたり、虫を眺めていたりと、幼いウキナの姿がそこにはあった。そして必ず自身やマダラ、そして今は亡き3人の兄たちの姿も共に写っており、誰もが蕩けんばかりの表情でウキナに笑いかけている。…幸せの縮図のような絵がそこにはあった。
ウキナが生まれた当時は三歳と、記憶も朧げなイズナとは違って、マダラはしっかりと覚えているのか、「この時は…」と当時の隠れエピソードを楽しげに語りだすから羨ましいものだと思いつつ、イズナもアルバムの虜になっていた。
それから後半にかけて写真に写る兄弟の数が一人、また一人と減っている。最初に長男のハルキが、次に次男と三男のトウマとナツキが、残った兄弟は自分とマダラとウキナ。亡き両親も「ウキナを頼む」と残して死んでいったが、果たして自分はあの子を守ってこれたのだろうか。
現在自宅で療養中だが、治る見込みがないと謂われている自分よりも里のために働いているウキナが自身に重傷を負わせた男に嫁ぐのが明後日のこと。
一族のためにはそうすべきだと頭では分かっているが感情が追いつかない。誰よりも幸せになってほしいと願っているあの子を追い込んだ自分たちが情けないと、これ以上ない位複雑な心情に、自分以上に血反吐を吐く勢いで悔やんでいる兄を思っては、当日台風でもこないかなぁ、と中止になることを望んだ。
「……ね、兄さん。」
「なんだ?」
最後のページまで捲っても、また最初から見だした兄の背にイズナは声をかけたら、あっさりと返事が返ってきたことに驚きつつ続けた。
「また、三人で写真とろうよ」
「ああそうだな。撮ろう、どこか景色のいいところで、三人で」
顔を上げたマダラはそうやって少しだけ笑った。
(この約束が果たされることがないことを、この時は知らなかった。)
07話
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