木下闇 | ナノ


▽ それでも本音は


どうして、と涙腺が決壊したようにボロボロと大粒の涙を零しつつ、骨身が軋むんじゃないかと錯覚するほど強い力で抱きつくマダラ。
ウキナは仕方なさそうな、申し訳なさそうな顔をするしかなかった。


「どうしてなんでお前はずっと俺のものだといったじゃないかそれがほかでもないあの男のものになるなんて嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」

不安定な精神に影響されマダラの纏うオーラが周囲を傷つける。パリンと割れる窓からただでさえ帰宅したばかりで温められていない室内に夜風が入りこむのですっかり冷え切っていた。


「兄さん」

「なぁ俺が悪いのか?お前に力を貰って、お前を守ると誓っておきながら柱間1人殺せない弱い俺が悪いのか?それなら強くなるから…もっと強くなると約束するから、そうしたら俺の下から離れるなんて…よりにもよってあんな弱く醜い千手扉間なんかのモノにならないよな、なぁ!」


必死でウキナを説得せんと、涙ながらに訴えるマダラを前にしてウキナはこんなにも思われていたのかと胸が一杯になるが、今はその伸ばされた手を取るわけにはいかなかった。大人しくマダラの腕の中に納まっているわけにはいかない事情があった。

「兄さん、よく聞いてください」
「いやだ」

「私は扉間さんと結婚します」
「聞きたくない!」

「だけど私は兄さんの味方です」
「…っ?!」

吃驚し顔を上げたマダラに、ウキナは目を細めた。兄だけど、今のマダラは母親を失う子どものような顔をしていた。ウキナの存在はいつのまにかマダラの精神的支えにまでなっていたことを、当事者である彼女はこの時点では正しく理解していなかった。
だが理解はせずとも、ウキナもマダラに依存していた。お互いがお互い無くては生きていけないんじゃないかとうちは勢が思ってしまうくらい、傍から見てもその絆は深く、重い。

座り込んだマダラの視線に合わせる様にウキナも膝をつく。マダラの愛した漆黒が慈愛を満ちて上から見下ろしていた。

「だって、約束したでしょう?」
「約束」
「ええ」

そしてどこまでも甘美な聲は耳元で囁かれた。


「“ずっと一緒だ”と、」


確かにそれは彼女との誓い。しかし、

「だけど、お前は…」

戸惑った声で再び俯くマダラにウキナも口端を上げる。マダラの動揺という心の隙間に入り込むように、静かに、音も立てずゆっくりと忍び込む。


「何処にいようと、心は貴方に…兄さんにあげます」
「たとえこの身が朽ちようと、私は永遠に兄さんだけのものです」
「私を愛してくれた兄さんの下が私の唯一無二の居場所なんです」


両頬を包むウキナの小さな手は冷たかった。桃色の唇を眦に寄せ、マダラの瞳から零れ落ちる滴を舌で舐めとる。…何度も、何度も、繰り返し仕上げとばかりにチュッと目尻に唇を寄せて。


「私は兄さんが一番好きですよ」

(それでもお前に触れられるヤツが気に食わなかった)


05話




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