木下闇 | ナノ


▽ 等価交換




その事を検討に入れなかったわけでもない。


いかにマダラたちを生かすか、ついでに一族を守れるか、そのことだけに策を巡らせていたウキナだ。


出自、立場、能力、どれをとっても自分が政治的道具に、それも一級品の価値があることは自覚していたし、利用しようとしていた。ただ行動に移さなかったのは他でもなく守りたいと願った人達が止めたから…お前の幸せを一番に望むと訴えられたから出来なかっだけだ。



だが、ウキナの幸せとはマダラの幸せと同義である。
だからこそその提案は非常に魅力的なものだった、と後に彼女は語る。


そこに喜びや怒りといった感情は、全く少しも抱くことは無かったとも付け加えて。







「おい」

「扉間さん?」

「これが欲しければ俺と結婚しろ」


千手扉間の(何十回目の)プロポーズは火影室に向かう途中に存在する、誰もが毎日行き交う廊下で行われた。





03話





猿飛ヒルゼン。彼は扉間の弟子のひとりである。彼は運悪くその時、その廊下にいた。
周囲のざわめきから誰が来たのか気づいた彼は、静まり返った方向に視線を向ける。


 うちはウキナ。うちは三兄妹の1人であり、出来たばかりとはいえ、里の五本指に入るほどの忍者。その生まれ持った美貌もさることながら、儚く可憐な外見を裏切る兇悪な術を無表情で放つ様は幼くともうちはというべきか。

敵にすると裸足で逃げ出したくなるほど怖ろしい人だが逆に味方であれば頼もしい…ダンゾウは未だ苦手らしいが、カガミを通してそれなりに顔を合わせているヒルゼンは師匠同様尊敬すべき忍びだった。


 そのウキナは現在二大火影の1人であり、彼女の実兄・マダラの相談役という役職についている。謂わば里の重鎮、彼女が火影室に向かうのはよくあることであり、偶然彼女を見かけた人間がその白皙の美貌に見蕩れ放心することもよくあることだ。ヒルゼンも慣れるまでは暫く硬直していたほどで、ようやく不意打ちじゃない限り平静を保てるまでに成長した彼は彼女に挨拶しようと一歩踏み出す前に見てしまった。


(扉間さま?)


師匠がいつも以上に不機嫌そうな表情でウキナを見ている。そわそわと落ち着かない、緊張でもしているかのような様にヒルゼンも訝しげな表情になる。

だからこそ、冒頭の発言に頭が真っ白になった。


「……」

「うちはを捨てて千手になれ」

「……」

忘れてはいけない。彼女は、うちはらしいうちはで有名だった。つまり一族を誇りにしているし、その姓をあろうことか捨て、宿敵として長年敵対してきた一族に嫁げと謂われたのである。

その場の空気がどんどんマイナスにまで下がっていようが、扉間は構わずガンガン地雷を踏む。それにウキナの眼差しこそ静かだが、だからこそ余計に寒く感じる、背筋が凍るような視線で男を射貫いていた。

視線が交わっていないヒルゼンは小刻みに身震いした。


(なんでこうなる?!!)


扉間の片想いは有名である。同時に決して実らないとまで断言されていた。

それはヒルゼンも知っていた。

相手があのうちは"ウキナだからだ。

「え、本気?あのうちは嫌いの扉間様が?嘘だろう幻術か?」などと思うほど。

だがウキナを前にした扉間はまさしく恋する乙男。

普段の冷たい印象を与える白髪に赤目の容姿からは想像もできないくらい仲間想いの熱い人間なだけに、繊細な人間は心臓が止まりかけ病院に担ぎ込まれるというほどである。


当事者たる小さな少女に耐えられるのかと周囲の心配は今の所無駄であった。なぜなら、彼女は繊細な外見に反し、マダラの妹だと納得できるほど精神的に図太いからだ。



「よく読め、そしてここに判を押せ」


訝し気な眼差しで差し出された書類を受け取ったウキナは何気なくそれを一読すると、物凄い勢いで百科事典並の分厚さのそれを捲っていく。

パラパラと紙を捲る音だけが静まり返った廊下に響いた。


最後のページまで読み進めたウキナが顔を上げた。

「本気、ですか?」

「お前が手に入るならこれくらい」

口許に笑みを浮かべた扉間を暫く観察した後、ウキナは、


「ええええええええ?!!!」

「サル、ウルサイ」

「え、いや、え、押しちゃうんですか!本気で!」


ヒルゼンはあっさり判を押したウキナに驚きを隠せない。あれだけ毎日アタックされていながら扉間じゃなければ心が砕かれるんじゃないかって辛辣さで完膚なきまでに振っていたにも関わらず承諾したのだ。


「よし!サル、お前も証人だ。ウキナは俺と結婚して千手になる、よいな?」

「・・・これ幻術じゃ、って、いねぇ!」


廊下に混沌だけを残して扉間は避雷神の術で飛んだ。






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