▽ 後悔と企み
「一夜の過ちという言葉をご存じですか?」
「俺の辞書にはない」
だから責任持ってお前を一生大切にする、と指輪(しかもかなり値が張るやつ)を差し出す男に過去の自分を呪うウキナだった。
22話
ウキナと扉間が里に帰還してから二人の間に何かあったと勘付かないものはいなかった。
「先生、それを垂れ流しにしないでください」
「何をです?」
本人無自覚にも滴るような色気を孕んだ流し目に思わずくらりとするカガミは年頃故に赤面していた。
元々一族の良い所取りしたような稀有な美少女が帰還した日から発する妖艶な雰囲気に、耐性があったはずのマダラが気絶した。イズナでさえ苦虫を噛み潰したような顔で全てを悟ると、ウキナの前限定で穏やかに凪いている黒の目に殺意の色が滲んだ。
扉間はというと事ある毎にウキナをストーカーし、多種多様なプロポーズを実行する。
通算10回目の「お断り」にしょぼんと項垂れた扉間を気持ち悪そうに一瞥した後、ウキナはカガミを連れて集落に逃げ込んだのである。
「そんなに嫌なら小太郎殿にいって暗殺すればいいじゃないですか」
「ダメです。彼は使えます。きっとそのうち我に返って元のうちは嫌いに戻りますよ」
無理ですよ、とカガミは冷静に判断した。何故そこまで扉間が諦めるという自信があるのかと疑問にも思うが、うちはを嫌いにはなってもウキナの事を嫌いになるなんて、到底考えられなかった。
「でもこの間ヒルゼンに訊きましたが最近扉間殿は一分一秒たりとも先生の傍を離れたくないとかいって“影分身”という術を開発し、分身体に働かせているそうですよ」
「……」
「それでも本人が行かないといけない里外任務もすぐに帰還できるように避雷神の術を多用しているとか」
「……」
恥や外聞など捨て去っても構わないと全身全霊で愛を訴える扉間を一部では『さすが愛の千手ですね』と称えているらしい。千手らしくない千手として影で囁かれていた彼には良い事なのか、悪い事なのか。
「でも先生は結婚しませんよね」
「さあ?」
え、と戸惑うカガミにクスリと笑ってウキナは云った。
「どうなるか分かりませんよ」
本当にどうなるかは分からないものだとカガミは後に思い知った。
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