木下闇 | ナノ


▽ 千手兄弟



20話




ソワソワ、ソワソワ。
以前の彼からは考えられないほど落ち着きのない態度に我慢できずに声をかけた柱間はすぐさま後悔した。

「…喜んだだろうか」

どこの乙女だ!!

ぽわ〜んと花でも飛ばしている弟を見るに堪えないと柱間は顔を覆った。
当の扉間は『明日はどの花を贈ろうか』と花言葉を調べて吟味している。

『仕事をしろ!』といえばいいのだろうがそこは扉間らしくしっかり熟している。仕事に託けて会いに行くのだから仕事を蔑ろにはしない。寧ろ少しでも手を抜けばウキナに幻滅されると思って通常より厳しい。なのに仕事は早いのだからその直属の部下の苦労は知れない。

まあ少なくとも自分の机に未処理の書類の山があるうちは何も文句が言えないだろう。


相手が連日送られる花の処理に困惑していると知っている柱間は『まあ待つぞ』と止める。

「お前がウキナが好きなのは『違う!断じて惚れてない花屋の売り上げに貢献しているだけであって男ばかりのうちには不要だから処分も兼ねてアイツにくれてやってるだけだ』…そうか」


まだ認めようとしない頑固な弟も悩みの種だ。
しかしふと思い出した柱間は何も考えず訊ねた。

「だがこの間海辺の砂浜でお前が自分の名前の隣にウキナと書いていたのを見たが、(ドカン!!)」

そこで柱間は口を閉ざす。衝撃音の正体は煙が晴れると同時に露わになった扉間とその腕が破壊した壁の残骸が物語っている。

なるほど、これが初恋拗らせたおっさんの姿か。

素直になれず、かといって執着心も半端ない。愛情を拗らせたうちはは厄介だと有名だが実は千手もそれは大して変わらない。恋愛よりも研究に熱を入れている扉間が心から添い遂げたいと願う女はいないだろうと一族全体の認識を覆されたが、出来れば一生見たくなかったと思う。


はぁ、と溜息混じりの声を洩らせば『鬱陶しい』と辛辣な一言が返されもう柱間は泣きたい気分だった。

そんな兄を冷たく一瞥した扉間は通常モードに戻り、今度発表する件を最後の足掻きとばかりに口にした。

「それよりも本当にマダラの火影就任も認めるのか」

「何か問題が?」

「問題しかないに決まってるだろう」


つい先日、里長を決めるに当たって意見は分かれた。マダラか、柱間か、大多数の心情的にはマダラは絶対に御免なのだが、問題は火の国大名側からマダラの名前が挙がっていることであった。
のほほんとした大名が好戦的でお世辞にも愛想のいいといえないマダラを推す理由はないはずだが、そんな大名の重鎮が結託して薦めるのだ。裏がありそうなのに誰もが揃って「それが最善だからだ」と答える始末。

「裏で手を回したのはあの女だ。全く喰えん奴だ」

扉間の話しを聞いて柱間が出した答えは、

「フム、お前そっくりぞ」

「黙れ」

しょぼーんと沈む柱間を心底阿呆と謂わんばかりに冷たい眼差しを向けた扉間。彼はその眉間に皺を寄せたまま続けた。



なぜ大名の意見にここまで抵抗するのか、そもそもマダラはお世辞にも里人皆に好かれる人間とは言い難い。素直じゃない上に、非常に分かりにくいがツンデレ。デレが来るのを首を長くして待つだけの精神を持ち合わせているのは、好敵手と呼ばれる柱間と大のうちは嫌いで有名なその弟の扉間くらいである。まあ扉間ならマダラのデレを欲しいとは思うはずもないが。

そしてその扉間の反応はと言うと、


「あの男は危険だ」

「扉間…またそんなことをいって」


ドンと腕を組んで厳ついと謂われる顔を顰めて言い切った。里長を選ぶ以前からずっと言われ続けた科白に柱間もうんざりする。


「何度だって言ってやる。うちはは危険な一族だ。兄者だってそれは理解しているだろう」

「……だがマダラたちにだって良いところはあるぞよ」


ない


扉間の一切の躊躇もない発言に流石の柱間も黙りこくった。


「あの一族…とりわけマダラについて里人の認識を知っているか?『近づくな、危険。歩く破壊神。永遠のシスブラコン』だ」

「なんぞ!ちゃんと解っているじゃないか!」


色々と誤解しているなら兎も角、皆マダラを理解していると安心する。朗らかに笑う兄に扉間はガクリと項垂れた。

「何処だ?」


この脳内お花畑の兄はそれでどうしてマダラを野放しにしていると詰め寄る弟に、「お前ちょっと神経質すぎるぞよ。将来禿げるぞ?」と一言。

「余計なお世話だ。それに禿げん、禿げるなら兄者が先だ」と返される。どこぞのうちは家の仲睦まじい兄妹とは雲泥の差である。


「どの一族もうちはには散々苦汁を甞めさせられてきた。」

「…そうだな」

思い出す、戦場でよくわからない奇妙な力を振うマダラたち。戦闘後に何故か身体から湯気のようなものが出て困惑した苦い思い出つきだ。

いつのまにか止まっていたが、あれは一体なんだったのか。
マダラたちの強さの秘密の鍵を握るウキナに確認すれば見惚れるほど美しい微笑みで『さあ?』と否定されたっきり分からずじまいだが。


柱間が違うことを考えていると気づいた扉間が一発ぶん殴って、意識を強制的に戻した。

「い、痛いぞ!」

「……千手はまだ兄者がいた。マダラに対抗できる人間が。
だが余所はそうはいかん。マダラ・イズナ・ウキナの三兄弟揃えば人間通り越して『厄災』だ。その1人が里長で、残り二人が陰口叩く里人を半殺しにしているとなれば周りも黙ってはいない」


「(あの二人そんなことしていたのか…ん?)俺でも知らぬことをなぜお前が知っているんだ?イズナなら兎も角ウキナの方は証拠を残すようなへまはしないはずぞ?」


「………兄者には関係ない」

日々のストーカーの成果とは到底いえない。


「そうか?うむ……ならどうすればマダラが受け入れられるか考えようぞ!」

「勝手にやってろ」


大名の件もあるから俺はあの女を監視してくる、と言い残して立ち去る扉間に『ストーカーしたいだけぞ』と呟いた柱間だった。





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