木下闇 | ナノ


▽ 恋する千手


14話



 改めて両代表とその懐刀が顔を合わせる時に戦場ではない陽の下で彼と初めて対面した。



「ようこそうちはへ。千手扉間殿」
(――全然歓迎していませんが)
そんな気持ちを胸の内に隠して社交辞令を口にする。だが目の前の男の様子が可笑しいことにすぐさま気が付いた。

「?」
「……」

(なんですかこの違和感)
可笑しい。怪訝そうなウキナに反して扉間は両腕を前に組んだ状態での真顔。いつもと変わりなさそうでいつも以上にその内心は乱れに乱れていた。

未だいがみ合っていたイズナが不審に思いトテトテと近づくがいつもと反応が違う。不快そうに眉間にしわを寄せる常とは異なり相も変わらずウキナをガン見したまま硬直しているライバルにイズナは猛烈な不安を抱いた。
 
(これウキナは近づけない方がよさそうだね)

イズナがその旨を妹に伝える前に同じく今の扉間に一種の不安を感じたウキナが兄に離れるように警告するため一歩前に踏み出したその時――、

ヒュン、と鋭い風が吹き抜けた。
と、同時にドシンと地を震わす振動が伝達する。


「え?」
「扉間?!!」


誰かの悲鳴が聞こえた方向にくるりと顔だけ向ければへたり込んだ人間の真横、大木といってもいいものが切り倒されていた。

大丈夫だろうが倒れた人間に怪我がないか確認するため近寄るウキナは結果的に扉間から離れることになる。ウキナとは逆に扉間に詰め寄る兄・柱間は珍しく顔を青褪めさせてギャーギャー騒がしいが、基本的に柱間嫌いなウキナの耳にはその会話はシャットダウンされ聞こえなかった。


「ちょっと行き成り変なチャクラ練らないでよねー」

「全くだ。ウキナに当たってかすり傷一つでもつけたらその命を持って償えよ」

「と、扉間?!」

上からイズナ、マダラ、柱間とそれぞれ話しかけるが対する扉間は先程から全く変化ない。整った顔に割に愛想の欠片もない仏頂面も威圧的な態度も、そして爛々と輝く紅玉の瞳に宿る想いも何一つ変わらなかった。

何よりも生理的に嫌悪していると公言するうちは兄弟に言い返すこともなく、ただただ食い入るように遠ざかっていくウキナの背を見つめる弟に一抹の不安と焦燥を抱く柱間は正しく兄だった。何度もその肩を揺さぶり、いい加減にしろと無言で訴えるも扉間とは目も合わない。

いつまでも見つめ続けたのに苛立ったイズナが怒りを隠さず『ちょっと、いい加減にしなよ』と訴えるのでその隣で似たような反応をしているマダラが口を開く前に無理矢理扉間を引っ張っていく。
大人しく引きずられる弟に柱間は空を見上げた。
快晴だ。

(あの扉間が俺に引っ張られるなんて!?)

感動通り越して一種の恐怖である。常と真逆の立ち位置に柱間は本格的に弟が病気か何かかと心配した。
人気のない場所まで引きずった柱間はどこか上の空状態の扉間を見やる。

(ふむ、相変わらずの不愛想ぞ)

時に炎の如く熱くなるが、基本的に冷静沈着な男、それが千手扉間。
そんな男が最も嫌悪しているとはいえ、うちはの集落内で意味もない争いの火種を蒔くとは思えない。

何か意味があったのか?
弟に全幅の信頼を寄せている柱間はそれも問いたかった。だからその口から零れた科白に唖然と目と口を丸く開いた。


「あの女は…天女か何かか?」

「は?」


いや、いやいやいやいやいやいや、いや!一寸待て。お前ホントに扉間か。マダラの変化じゃないよな?
と、柱間が疑ったのは仕方ない。どこか熱に浮かされたかのように紅潮した頬すらあり得ない。そういえば以前戦場で遭遇したとは聞いていたが、あの時も似たような顔をして……イヤイヤイヤ、有り得ないぞよ!!

赤い瞳がその色のイメージらしくない冷徹な光ではなく、焦がれる様な熱く滾った情を孕んでいるのは見間違いだと思いたいが、よく当たらない勘はそういう時だけよく当たるのは身を持って知っている。


早く戻らないと一緒に来た同盟組に迷惑がかかる。解っているが、これだけははっきりさせてから戻らないといけない気がした柱間は戦場で妹病拗らせたマダラに立ち向かう時並の決意と意気込みを持って訊ねた。


「お前、ひょっとしてウキナに恋したのか?」

うっそだー!冗談だろう?俺の勘違いか!…と笑い飛ばす準備をしていた柱間はすぐさま後悔する。

「………」

「え?と、扉間!?」

「…そうか、これが“恋”なのか兄者」


悟ったような、そうか納得したと云わんばかりの顔でそう云った扉間とは反対に柱間の顔に浮かぶのは絶望。
彼は知っていた。他ならぬ、ウキナの兄、マダラの異常なまでの妹に対する執着と愛情の重さを。過去それについて不安を抱いたが、今ではあの頃の比じゃないのは明らか。

 兄ならば遅咲きの弟の初恋を叶えてやりたいが相手が相手。自覚して生娘の初恋のような空気をまき散らす扉間に珍しく頭を抱えた柱間であった。





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