木下闇 | ナノ


▽ お出迎え


13話




 化け物じみた山犬をもうコイツ尾獣じゃね?と風の国にいるらしい一尾の存在を疑うほどその暴れっぷりは凄まじい。だがその化け物を使役しているうちは一族の方がもっと厄介だというのは言うまでもない。


逢魔が時。試しの門を潜ってから暫く続いた林道を速足で進むと、予定より遅くなったためか出迎えの影が二つ三つ、やけに印象的な人影が前方に見えた。おや?と目を細めるとそのうちの一つがゆっくり頭を下げた。

「遠路はるばるようこそいらっしゃいました」

涼やかな聲、優雅な物腰、上げられた顔に目を見開いた。見慣れた同族すらうっとりするほど浮世離れした美貌…それが微笑んでいる。誰もが息を呑んでポカンと口を開けて見惚れている中、過去何度も顔を合わせ耐性がついていた柱間が我に返った。

「おお!ウキナか?!まことに美しくなられたな!」

柱間に「当然だろう俺の妹だ」と誇らしげに頷くマダラの隣で「まあ!」と手を口に当てクスクス笑う姿は可愛らしい。だがその可憐な仮面の下で盛大に舌打ちをしていることは知らいない方がいいだろう。
我に返った周囲もその顔立ちがよく見るとマダラたちに似ていることに漸く気が付いた。

「……あまりうちはらしくありませんね」

ポツリと呟いたのは誰だったのか。だが他族の心はそれに同意していた。顔立ちではなく、雰囲気がうちはらしくなかった。
特にうちはの代表であるマダラの隣に並ぶとその違いは一目瞭然だ。

誰かのその洩らした一言を聞き取ったウキナは目を三日月のように細めて笑った。




***



 通称試しの門を潜った先はうちは一族の敷地内。そして来客専門の屋敷に案内される。
一般的な集落では本家の一室をそれ専用に充てているが、規模が規模のためうちは一族や千手一族は別邸を使用していた。
千手一族のそれは来訪者に充てた室から見える庭の池が殊更見事と評判だ。しかし、このうちは一族は敷地内で庭に池が存在するのは本家のみであり、そこを客にあてがうことはない。というのも、本家の屋敷を建て直す際、マダラがウキナの室に池をつけようと選んだ場所がそこだっただけの話。
集落内に商いの店舗がある一族は来訪の際に一儲けするために客室もやや奥まった所に建てる。逆に見られたくないものがある場合は入り口付近に建て、「御足労掛けませんように」とかなんとか言い訳を口にする。
 だがこの一族、建てた場所は入り口でも奥でも隅っこでもない何とも微妙な場所である。客に対する気遣い・配慮が欠けているどころか、四方八方にうちは一族の邸宅が建てられているのでさながら牢に入れられた囚人の気分である。全く寛げない部屋だと酷評だ。

 さて、案内された屋敷を複雑そうに見上げる同盟予備軍の長達。特に紅一点というか、唯一の女長である犬塚一族のサイガは居心地悪そうに肩を竦めた。
この時、そんな彼女に近寄ったのがうちはウキナである。


「初めまして。棟梁が妹、ウキナにございます」

「えッ?!あ、あ、はい。こちらこそ。って!あんたが…」


サイガは話しかけられたことと想像以上に小さい子どもだったことに吃驚した。だがすぐさま顔を引き締めたのは戦場で広まった噂が原因だろう。見定めようとする視線を軽くかわしながら「そういえば」と口を開いた。

「犬塚の忍犬、一度戦場で拝見いたしましたが凄い活躍でしたね」

「へ、そうかい。うちはは忍猫契約してるもんだから犬はお嫌いかと思ってたよ!」

得意げに鼻を鳴らしたサイガにウキナは首を振る。

「いえいえ、確かにはるか昔から猫と契約しておりますが、彼らは何分『きまぐれ』ですので。その分忠誠心が高く、信頼関係を築けば最高のパートナーになれる忍犬、とりわけ犬塚のはこちらも評価を高くしております」

口調は大人と変わらないが、外見に相応しい愛らしい笑みに、その顔をジッと見ていたサイガも漸く気が抜けたのか肩の力を抜いた。小さくともうちは、小さくともマダラの血縁。戦場でマダラの羅刹の如く暴れまわる姿を目撃しているせいでどうしても警戒してしまうのだ。
朗らかで、透き通った聲に引き込まれるようにサイガは暫くウキナと談笑を繰り返した。





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