▽ 同盟と試しの門
11話
「なぁ兄者」
「なんぞ?」
目の前の光景に扉間は隣にいる柱間に問いかけた。
「奴らに同盟を組む気は、本当にあるのか?」
「ある!……はずぞ?」
「何故疑問形なんだ!?そもそも何なんだ!この罠は!」
「うっ、俺に言われても…」
本日同盟を結ぶためにうちは一族のアジトを訪れた千手兄弟を含む、各一族代表者は眼前に聳え立つ壁に呆然と仰いでいた。
到着するなり見たこともない巨大な門に唖然とした彼らに、案内役のうちはの人間が云ったのは想像にもしない一言。
曰く、『これは試しの門でございます。貴殿らの誰かがこの扉を開けられなければ、その時点で同盟の話は無し、と長より承っております』
そんなこんなで、力自慢な秋道一族が三人がかりで挑んでみると、
「ぐっ、ぬぅぅ〜〜〜ッ!!」
ギ、ギギギィィ〜〜…。ゆっくりとだが、確かに開いた門に、皆が歓喜する横で案内人は舌打ちした。聞き取った扉間が睨みつけるが、途端にそれまでの澄ました顔に戻る男に、扉間は眉を顰める。
絶対今回の会合、何かある。
油断ならないというのに、代表の兄がバカ面丸出しで、門が開いたことに一番喜んでいた。
(ああ、俺がしっかりしなくては…)
ひっそりと胸の内で意気込む扉間に、柱間は子供のような無邪気さで笑う。
「おおぅ!ほら、開いたぞ扉間!」
「人の気もしらないで、莫迦者が(そうだな)」
「え?」
「ム、すまん。心の声と逆だった」
「それ余計に酷いぞよ!?」
盛り上がる千手兄弟に、気まずげに「あの〜」と声をかける他一族。
「なんぞ?」「なんだ」
揃って聞き返すと、顔を青褪めた彼らが指さした方向をみて、流石の柱間も絶句した。
「で、デカいぞ」
「山犬か?」
ハァ!ハァ!と息をする巨大な白い犬。こちらを見つめるつぶらな黒目が可愛いはずなのに、本能的に危険だと察した。
名も知らぬ犬はまず初めに柱間を見て、
「!!今俺のこと鼻で哂ったぞ?!!」
続いて興味なさげに他一族を一瞥し、そして
「!!?っく、」
「扉間!!?」
扉間に向かって巨大な腕を振り下ろした。間一髪回避した扉間は警戒して、犬から距離をとり、いつでも術が使えるように苦無を取り出し構えた。
「兄者!やはりこれは罠だったんだ!奴らに、うちはに同盟を結ぶ気はない!」
「そ、そんなこと…」
「この状況を見てまだそんな甘い事云っているのか?!現実を見ろ!」
「そうだね。他人よりも今は自分の心配をした方がいいよ?」
柱間に訴える扉間に向かって、やけに落ち着いた声が掛けられた。
「き、貴様は…」
驚き、次いで殺気を籠めた赤い瞳が写し出したのは、
「うちは、イズナ」
「うん。久しぶり。ところで虫唾が走るからお前が俺の名前気安く呼ばないでくれる?」
コテンと首を傾げながら、ね?とお願いというより命令に近い強制力が籠った声でイズナはニコニコと微笑む顔とは裏腹に、目だけは笑っていなかった。
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