木下闇 | ナノ


▽ とあるうちは視点


10話



 突然の呼び出しに、うちはヒカクは本家の長い廊下をギシギシと音を立てながら進んだ。
 忍界で一二を争う実力派名家の本家らしく、その屋敷は大名の別荘といっても過言ではない大きさを誇る。質素とも豪華絢爛ともいえないが、御忍びらしい程よく品のある邸宅だった。


 池の鯉が水面から顔を出し、庭先には薄桃色の花びらが散りばめられ、花びらの絨毯のようだった。風に乗ってヒカクの肩口にもそれは舞い落ちた。

「桜か……」

儚く、美しい。春を代表する花に感嘆の息を洩らすが、花を愛でる暇がある今この時間が永遠に続けばいいと願う思いが胸を占める。

先日の戦もうちはの大勝利で収めた。そして今のうちはには次も、その次も、そのまた次も、負けるとは思わない。自分たちには先の先が見えなくとも、長が、そしてその長が寵愛するあの方が見えていれば全く心配など要らなかった。


「失礼致します」


スッと襖を開けると、どっと肩に掛かる重圧。室内の奥から感じる気に、臥せていた顔を上げたい、だが上げたくないと矛盾した考えが頭を占める。

いつまでもそうしていてはいけないと奮い立たせ、ヒカクは静かに頭を上げた。


「よく来たな」


 その声を聞いただけで圧倒される自分がいる。
着飾った美しい女の膝に頭を乗せ、横たわったままこちらを見据える漆黒の双眸にすら身震いした。
そしてその女も、こちらを一瞥してふわりと花のように顔を綻ばせた。それだけで頬が紅潮してしまい、思わずまた顔を臥せてしまう。まるで見てはいけないものを見てしまったかのように――…。

 寄り添うようにそこにいる二人はまさに連理の枝のようで、その間に誰も立ち入ることが許されないような雰囲気があった。もし入るとするならば、彼らの実の兄弟であるイズナ様だけであろう。

桜を儚く美しいと称えたが、この兄妹を前にすれば桜さえ霞んでしまう。

ヒカクは恍惚とマダラたちを見つめていた。そんな彼の心境を知ってか知らずか、マダラは口端を上げて咽でクツクツと哂うと、今日呼び出した本題だと口を開いた。


「千手と同盟?!!」

「ああ」

驚くのも無理はない、とマダラは続けた。

「先日の戦もうちはの勝利だった。が、このままうちは勝ち続けたとしても他一族共が手を組んでうちはに攻め入らんとは言い難いのが現状だ。現に前回は千手が出てこなかったが、奴らはこちらの情報を嗅ぎまわっていた。このウキナも千手の扉間と殺り合ったらしい」

「!?ウキナ様が」

驚き、反射的にウキナに視線を向けると意味深な笑みを返される。それを肯定ととったヒカクは悔しそうに手を握り千手に対して暴言を吐いた。


「可笑しなことに同盟の話を持ち掛けられたのはお互いのアジトの中間地点、に、対して今回はこのうちは一族のアジトだという」

「そ、それは!」

目を皿のように丸くするヒカクにマダラは答えた。


「うちは一族の強さの秘訣…つまりこのウキナについて知りたいのだろう。本来なら皆殺しにしてやりたいところだが他でもない、ウキナがここに招待しよういうのだ。知りたいのならば来い、と」

「そ、そんなことをしてもしウキナ様のお力を奴らに知られてしまえば」

「ああ。どんな手を使ってでもウキナを自分たちのものにするか、最悪殺そうとするだろうな」

「ならばなぜ?!」


荒ぶる口調を正すことも忘れ、マダラに問いかければ、マダラは誰もが魅了されそうなくらい蠱惑的に微笑んだ。


「奴らに教えてやろうというのだ。俺が、うちはがどれだけウキナを愛しているか。そして奴らが覗いた穴が虎穴よりも恐ろしく、二度と足を踏み入れる気さえ湧かないようにな。……まぁ二度目があるわけないだろうが」





prev / next

[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -