木下闇 | ナノ


▽ そのころの兄たち


09話



「遅い…!」

周囲は殺伐とした雰囲気に気圧されていた。平伏した額をあげたくない、膝の上で握られた拳を震わせながら自身らの長であり、同時に最も厄介なシスコンが怖ろしくて仕方なかった。

マダラから発する負のオーラは身近な草木を腐らせ、毒物は瘴気を発生させる等と美しい緑豊かな自然の一角が地獄の最下層のように変わり果てだした。


遂に我慢できなくなったのかマダラは苛立ちを隠さずもう一度「遅い」と叫ぶ。


「イズナ、もう一度やれ」
「え〜」

傍にいたイズナに命令するマダラ。浮かない顔をするイズナに再度命じる。

「早くしろ。じゃないと俺が迎えに行く」

「はいはい」


しつこいって嫌われても俺知らないからね、と告げてからイズナは目を閉じる(その時マダラは嫌いと謂うウキナを想像したのか顔が一瞬青褪めた)。

遠く離れた場所にいても契約した相手となら脳内で会話が出来る、所謂テレパシ―。山中一族の秘術を他一族が使えるはずもないが、他人の精神に情報を伝達する実証的には確認されていないその遠感現象とされるものをイズナは使えた。ウキナから教わった念能力である。


『ウキナ、早く戻っておいで〜じゃないと兄さんが血反吐でも吐きそうだよ〜』
『今すぐ帰ります』
『ん、気をつけて帰っておいで』


閉じていた瞳を開け、ソワソワとこちらの様子を窺っていたマダラに笑いかける。


「すぐ来るって」
「そうか」

僅かだがマダラの纏う負のオーラが収まり、うちは勢は安堵の溜息をこぼした。
マダラの雰囲気に圧されてはいたが、彼らだってウキナの安否を気遣っていた。

身内に執着し過ぎる上に他者を見下す傾向が強い一族故か、戦乱の世で各々が同盟を組みだす中、うちは一族は孤立無援状態。

どうにかしなくてはと思いつつ、良案は思いつかない。


そんな中で劣勢だった一族を優勢に変えるほどの力を与えたのはまだ十にも満たない幼い少女だった。初め先代の娘だからと従いつつ内心では嘲っていた彼らも、次第に彼女を認め、今では神の如く恭しく扱っている。うちはの良い所取りをした美貌と称えられるほどの容姿も一役買っていた。

矜持が山の様に高いうちはの人間が、年代性別問わず彼女に教えを請うているのだから、それは真実だろう。


暫くするとうちはの神様が帰ってきた。途端禍々しい紫色のオーラを桃色の恋する乙女オーラに変えるマダラは、「ウキナゥゥゥゥゥゥッ!!!」と奇声を発しながら抱き付いた。


ガシィッ!離すもんかと両腕を背中と腰に巻き付ける。


「おかえり俺の可愛いウキナ。お兄ちゃんの腕の中にもおいで」

「まてイズナ俺の可愛くて天使なウキナは渡さん」

「兄さんちょっと離してください」

「なっ?!ウキナ…お兄ちゃんが嫌いになったのか!?」

「違います」

「じゃあ俺の腕が恋しくなった?」

「…違います。兄さんの締め付けが痛いんです。ほら、痕が…」

「ああ!!ウキナの綺麗な白い柔肌に悍ましい青痣が!!兄さん離してよ!」


ガクガク、ブルブル、ポタポタ。


「「に、兄さん?!!」」

「お、俺のせいでウキナの美しく芸術的で完璧なこの世の至宝とも呼べる身体に傷が…でも不完全な美もまた美しいと思えてしまうのは他でもないお前だからなのか?
もし万が一この痣が一生残るものならどうする白皙の肌に薄らと残る青痣はただでさえ儚げな天使のウキナをより一層消えてなくなりそうな儚さに変えるだろう…もしかしてあまりにも美しいあまり天からお迎えがくるかもしれない。そうしたら二度と会えないかもしれない。だとしたら俺はお前を閉じ込めて一生外に出さないぞ。痣一つでさらに美しくなるというなら腕や足が欠けたらどうだろう…ああ何てことだ!よりにもよってこの俺が!誰よりもウキナを愛しているこのマダラがそんなことを!!許してくれウキナ大丈夫だ俺が一生面倒見るだからもっと、もっと俺がお前の身体に傷をつけたい!


段々鼻息荒く、顔を紅潮させだすマダラから妹を庇う様に前にでたイズナは落ち着くように言う。

「兄さん途中から願望が漏れ出てるよ。そこは普通『御免』でしょ?軟禁にしろ監禁にしろ閉じ込めるのはダメだよ。それにウキナは痣があるよりないほうがずぅっと綺麗だよ」

それもそうだな!

「……」


マダラのこれは通常運転である。
切り開かれたはずの一族の未来に、一抹の不安を感じた。




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