木下闇 | ナノ


▽ 認めたくないが


05話



「…――っぅ」

低く唸る声に反応してマダラはそれまで項垂れていた顔を上げた。


ウキナ!
「……にい、さん………」

重い瞼を上げれば安堵したような表情のマダラが目に映った。

ウキナは小さく笑みを零した。


「どうしたんですか…どこか怪我でもしましたか…?」

ぶんぶん、とマダラは首を横に振ってから無言で枕元に座り込んだ。
再び項垂れた顔はウキナからも近く、思わずその頬に向かって白い指を伸ばす。小さく身震えたマダラだが、ウキナはそのまま指腹で薄らと赤く腫れた目元を数度なぞり、目を細めた。

「(目元が赤い…泣いたのか?なら、なぜ――…ああ、そうか、“彼”と)…柱間さんとお別れしたんですか」

そうか、今日だったか。



思い出したかのように突然の吐き気、眩暈に襲われ倒れたのが数日前。相変わらず医者から「いつ死んでも可笑しくない」と何とも微妙な診断を下されているとはいえ、ウキナ自身こんなときに倒れなくても…と思わずにはいられないタイミングでそれは訪れた。

床に臥せっている間、兄と千手の逢引が父にばれた。そして兄と父が何やら話し合っていたのも知っている。前情報がなくとも、常に強気な兄がこんな情けない顔をしているのは、あの男が原因だと予想するのは容易だ。

だがまぁその後の結末を知っているくせに、敢えて口に出して確かめるあたり性質が悪い。ただし、自分でも自覚しているのかウキナはそのまま自嘲気味に哂った。

対して臥せっている妹がそんなことを思っているとは疑うこともないマダラはウキナの口から出た“柱間”という名前に小さく肩を揺らす。


(嗚、当たりだな)

マダラに気づかれない程度に口端を上げた。


「…ッ!そうだ。だからちゃんと宣戦布告してきたぜ…それと、俺の写輪眼が、開眼した…」

――イズナも父さんも大喜びでさ、今日はお祝いだってよ!だからウキナも早く元気になって祝いの席に出ようぜ!とニッと口端を上げて微笑む姿に痛々しさを感じる。

それは明らかに無理して笑っていると明白で、更に言えばギュッと握りしめられた拳を間近で見止め、ウキナは一瞬口を開きかけた。

それともそんなに悲しかったのかと、続きそうな口を閉ざしウキナは不自然にならないようにもう一度瞼を下ろす。


……どうやらやっと別れたか、と安堵する自分はこの場には相応しくないらしい。


(今の兄さんと目が合えば……私の醜く薄汚れた感情も読み取られるでしょうね…)


瞳に宿った嫉妬の炎は、柱間の存在を認識したあの日から、ずっと燃え続けている。

だけど今はそれ以上に声を出して泣けない幼子に母性を擽られたのか、庇護欲を掻き立てられたのか、ウキナは無性にマダラが愛おしく感じた。

自分が手を伸ばさなければ、彼はずっとその想いを抱えて心で泣きながらうちはらしい修羅に成り果てると直感した。


「無理して笑わないでください…私は兄さんの妹ですが、生きてきた年数を考慮すれば貴方の“姉”ですよ?」


…――慰める役をくれませんか?と両腕を伸ばしてマダラの頭を抱きかかえる。


ウキナが口を開いた瞬間から笑みを消したマダラは黙ってウキナの胸元に顔を埋めた。小さく洩れる声と徐々に濡れていく感触を不快に思うこともなく、静かに頭を撫でる。



とん、とん。後頭部を抑える手とは反対のそれが、ゆっくりあやす様に背中を叩いた。


「私は兄さんから離れませんよ」

とんとん。暗示をかけるように、何度も甘言を舌にのせながら。


「だって、私も貴方もうちはで、同じ父と母から生まれたもう一人の自分と言っても過言じゃない存在……私と、兄さんと、イズナ兄さんはずっといっしょです」


(ああ、今どんな顔をしているのか兄さんに見られなくてよかった)







「…正直な話。お前は俺の大切な妹だ。だから、もしお前を任せられる人間がいるとすればアイツだと思っていた。」


顔を埋めたまま、マダラはそう告白した。それを聞いたウキナがとんでもないこと考えていたんですね?!!と、心底嫌っそうに眉を顰め吃驚している下でマダラはぽつぽつと如何に柱間が優れているか、そしてウキナを任せるにたる男かを語る。

マダラが語れば語るほど、次第に冷めていくウキナの瞳が見えないことはマダラにとって幸運だっただろう。その目を見ていれば、誰だって彼女が現時点で大の千手嫌いだと理解できただろうから。


「俺も忍だ。いつ兄貴やアイツらのように死ぬかなんて解んねぇ…だからこそ俺が死んでもお前が幸せになれるようアイツに任せたかった。…だけど今回のことで身に染みて解った……もう俺はお前をオレ以外の人間に託す気はねぇ!


そう宣言してバッと勢いよく面を上げたマダラはどこか吹っ切れたようだった。それでもその心にはあの少年の姿が存在するだろう。


(正直、あの男は眩しすぎる……うちはにとっても、闇に生きる人間にとっても。その証拠に…ほら、あの兄さんが袖を違えただけでいつまでもこんなにも弱い人間のままで存在する。)



だからあの男は危険なんだと、嫌う自分がいる




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