木下闇 | ナノ


▽ 兄の友は天敵


04話

あれから数年。
この身体に流れる血がそうさせるのか、見事ブラザーコンプレックス(通称ブラコン)を患いました。完治は不可能、軽減するには兄弟よりも優先する第三者の存在が必要不可欠ですが今の所そんな予定有りません。


だからこそ、マダラ兄さんの口からその男の名前が紡がれると胸の内で轟轟と黒い炎が燃えた。

兄さんの顔に喜色が浮かぶ度に私じゃなく、その男がそうさせているんだと思うとギリっと胸が締め付けられた。


私にだけ嬉しそうに語る、“友人”の話に嫉妬の炎を笑顔の下に隠しながら話を促す。


“柱間”。はじめて聞く名だ。だけど『ああ、彼のことか』と会ったこともない男を脳裏に描く…兄とは真逆な印象を与える男の成長した姿。よく覚えてはいない物語の過去の英雄を、
私は知っているのだから。


ウキナはマダラがいずれ世界の悪となることを知っている。知っているが、元世界的暗殺一家の長女だった彼女にとって、それは別段恐れることではない。問題なのは兄がまるで恋した乙女のような表情で男を語ること。また数十年後にクレイジーサイコホモと呼ばれても仕方ないほど柱間に執着する事である。

そして現にその片鱗が目の前の兄から感じられる。これは、やばい。

なによりもウキナがそんなホモ一歩手前の兄へ不満を感じている。マダラはウキナのそんな気持ちも知らずにやれ柱間があの時俺に〜などと惚気話をする。


「へぇ…」


当然、面白くない。顔は笑っているのに自分でも随分と冷めた声がでたものだと驚くが、次いでいいことを思いついたとばかりにウキナは言った。


「兄さん、私もその“柱間さん”に会ってみたいです」


これが彼女、ウキナと後に忍の神と謳われる初代火影の出会いの始まりだった。


***



マダラに引き合わされた二人。春の麗らかなる陽射しに似た、穏やかな微笑みで一方が差し出した手に応じ、固い握手を交わしていた。

口には出さないが親友だと思っている男と最愛の妹の仲良さげな様子に安堵するが、自分を差し置いてアハハ、ガハハな穏やかな雰囲気に嫉妬するマダラ。研ぎたての刃のような眼差しを背中に受けつつ、柱間はウキナと笑いあった。

そう、柱間が何を感じたかは置いといて、少なくともウキナは最初から仲良くする気はなかったとしても…。


漆黒の瞳から発せられるのは普段の慈愛に満ちた優しげな光ではなく、捕食者のような鋭さ。

静謐な雰囲気もターゲットを観察する暗殺者の気配にいつの間にか変わっていた。


さすがに殺気とゴミ屑でも見るような視線は隠しつつ、マダラ曰く天使の微笑みを浮かべて差し出された手を握り返していた。

若干強めに握っておくことも忘れずに。


「っヌゥ?!…アハハハハ!!流石マダラの妹だ!力も強いな!でも握手にはそんなに力を籠めなくともよいぞ!」

いっそ潰れてしまえとギリギリ力を入れたにも関わらず大してダメージがない。ち、と舌打ちが漏れるが、柱間の笑い声で掻き消された。


(これが、“千手”柱間か・・・)

能力を使わなくとも目の前の男が近い将来うちはの天敵になることは解りきっている。同時代に生まれた敵対する一族で各々の天才。未来に生まれる主人公の物語を形作るために存在する過去の因縁の始まりが、ここだ。


「…にしても、ほんとにマダラに似てないぞ!」

こっちのほうが可愛いな!と恥ずかしげもなく当人の前で褒める柱間。
妹が可愛いと云われて嬉しいが、自分が貶されたような気がしてマダラは複雑そうな面持ちである。

だが柱間がマダラの美貌を褒める言葉を口にすると、マダラは明らかに嬉しそうにも関わらずそれを誤魔化す様に憎まれ口を叩く。

完全に蚊帳の外な雰囲気に、ウキナの白い額に青筋が浮かぶ。


ウキナは怒りでフルフルと身を震わせる。マダラを器用に避け、柱間にだけ向けられる凍てつくような殺気によってその場の温度はドンドン下がっていた。


だが柱間は強かった。

特に対うちはに関しては、


「いつもマダラは口を開けばウキナウキナと云ってな、俺はてっきりウキナはマダラのこと粘着質でうざいと思っているんじゃないかと心配したがそんなことはないようだな。ウキナもマダラがそんなにも大好きなら良かったぞ!」


ガハハハハ、大口を開けて朗らかに笑う柱間にウキナは数秒硬直した。


「えっ、」

小さく漏れた声も震えていた。

(兄さんが、そんなこと……)


たったそれだけで口許が緩む。手で隠すが、小さな手の下ではニィィと口の端が上がるのはまだ彼女が初々しく純粋レベルのブラコンだからか。

ウキナの期待混じったキラキラと光り輝く眼差しを向けられたマダラは、世界中の何よりも愛おしいと云わんばかりの愛情を籠めた視線で妹を見つめる。

思わず身を焦がしてしまいそうな視線の熱情にウキナは歓喜のあまり肩を揺らした。

愛には更なる愛を、うちはの家訓を守るべく、ウキナは今自分にできる最大級の笑みとともに思いを込めて言った。


「大好きです兄さん」

とびきり甘い声で抱き付きながら耳元で囁いた。


柱間が見たマダラは酷く満ち足りた表情を浮かべており、柱間はこの異常ともいえる兄妹の姿に何も言えなかった。





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