木下闇 | ナノ


▽ 襲撃


02話



ある日、一族が襲撃された。

何かと敵が多いうちはは手慣れた動作でいとも簡単に襲撃者を撃退していったが、敵も莫迦ではない。人質として子どもを狙った。

それもまだ幼い子どもで家長の血縁者を狙ったのである。
それが一番厄介とは知らないで。


ああ、全く、なんて不便なんでしょう。

短い手足を必死に動かして走るが、心臓がバクバクと危険な音を刻む上に乱れた息が体力の無さを訴える。他人には云っていないがウキナには前世で培った力がある。今生で持った天賦の才がある。が、今はそのどちらも使えない。

オーラもチャクラも莫大なのはいいことですが有り過ぎるのも考えものですね。

要するに彼女の身体は所謂空気を限界まで入れ過ぎた風船状態である。急激に力を使用すれば身体が持たないが、繊細なコントロールが出来るほど身体自体まだ出来上がっていない。だから今は使うか使わないか、その二択しかなかった。

追いかけてくる襲撃者たちは僅か2、3歳の幼女を中々捕まえられないことに焦っていた。
そんな彼らを一瞥したウキナは思った。

仕方ありません。疲れましたし、いっそ彼らを道ずれにして人生をやり直しましょう。


体力がない彼女は基本的に一撃必殺を心がけているが今は出来ない。だからリセットです、と考えるところが明らかに異常である。


自分が再び転生するという確固たる自信があるせいか、彼女は生に疎かった。追いかけてくる敵を殺すことにも躊躇いがないのは前世の英才教育の賜物か。


 さあ逝きましょう!と微笑みを浮かべたその瞬間、「ウキナ――――ッ!!」と雄叫びを上げながら彼女曰くの道ずれ要員を蹴散らす少年。

逃げることに夢中(といってもほんの数分)になっていたせいで<円>を忘れていた彼女がその正体にきづいたのは、抱きしめられ、追い掛け回していた敵を羅刹のごとく眼で睨みつける兄の姿を見たからだ。
 
他の兄弟たちも一目散にこちらに向かっているのだろう。<円>には数人引っ掛かった。
マダラは腕の中で大人しくしているウキナが怯えているのだと勘違いし、一層強く抱きしめる。内心一番乗りしたことに歓喜しつつ、その怒りは収まらなかった。

ゆらり、と顔が敵に向けられる。ヒッと息を呑んだ瞬間、首と身体が切り離されているのだから何があったのか理解しないまま死んでいっただろう。マダラは目の前の敵を殲滅した。

いつの間にか囲まれていたが、その群れに肉薄するマダラ。

「(クソ、数が多いッ)」

その焦りが僅かな隙を作った。


「っあああ!!」

咄嗟にウキナを抱きしめ後退するがその時背中に激しい痛みが奔った。


「……ッ、」

痛みに顔が歪んだ。腕の中に閉じ込めたウキナは俯いていて顔色は分からないが、少なくとも血の匂いがしないから怪我はないだろう。

安堵の色がマダラの青白い顔に滲むが、敵は待ってはくれなかった。ここで倒すことを諦めせめてウキナだけでも安全な所に、と立ち上がったマダラだったがこの状態でまだ幼い妹を抱えたまま逃げ切る自信はなかった。

もう一度ウキナを大事そうにギュッと抱きしめ、名残惜しげに離して…

「ウキナ、逃げろ…逃げて、兄貴たちのところまで走るんだ」

「……」

「大丈夫だ。アイツらは俺が食い止める。だから行け!」


ドン、と押された背中は力強く、その勢いのまま走ればよかったのかもしれない。
しかしウキナは数歩だけ動いただけでピタリと足を止めた。

マダラはそれに気づかない。正面にいる敵はニタァと口端を上げて刀を振りかぶった。


その刀が振り下ろされる前に、

「ギャアアアアアアアアア!!!!」

「「「「ッ!!?」」」」


漸くマダラが逃げていない妹に気づく。が、


「ウキナ…?」


髪で目元が隠れてはいるが、ウキナは哂っていた。口端がニンマリと上がっているのが場違いにも悪戯っ子が悪巧みを思いついたような無邪気さが見られた。

肩口で揃えられた髪が風に靡き、目元も見えた。

赤い、緋い、燃える様に美しい瞳。
ゾッとするほど惹きつける目が一瞬光ったかと思えばマダラのすぐ傍にいた男が炎上した。

「アアアアアア!!!」

呆然とする襲撃者とマダラは何があったか分からない。分かるのは『誰が』やったのかだ。


「兄さん…援護します。だから」

――早く片付けませんか?

妹の本性を垣間見たマダラだった。






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