木下闇 | ナノ


▽ 審神者マダラ





本当に驚いた時、人間は叫び声一つ上げられないらしい。
…まぁ私が何かに吃驚したくらいで一々叫ぶことはないのですが。


「この泥棒猫!女狐!どっかいけよ!」



そう、ほんの数十分前に時は遡る。

爽やかな風が心地好く、光忠が持って来てくれたお茶を一口、うん、美味しい。
いつもは引っ付いてくる実兄にお使いを頼むことで排除したから静かだ。嫌いじゃないが、時折鬱陶しい。

和解したとはいえ一寸したことでトラウマスイッチが入って暴走するマダラ兄さんは面倒です。まだ前々世で出来た溝は前世で埋めきっていないし、偶には距離を置きたい。


現世でも親戚に生まれた私を激愛したマダラ兄さんに、或る日、審神者就任強制書なるものが届いた。これが届いた場合、文字通り審神者という歴史修正主義者と戦う刀剣男子を指揮する特殊役職につかなければいけないらしい。まあ兄さんの場合、刀剣男子なんていらないと思いますが一応そこは審神者ですから、それっぽく一応使わないといけないそうです。

そして当然の如く反抗した兄さん…政府役人の前で「俺からウキナをまた奪うのか!この世界も俺に絶望を与えるのか!」と発狂。あ、これやばい。うちは一族総出で抑え付けました。

本来本丸には審神者以外入れないのですが、就任早々早速何かやらかした兄さんに政府は「対マダラ対策本部」を結成。勿論長は柱間さんです。というか柱間さんがいたから兄さんは止まったとか。…まあ今回はよくやってくれたと感謝しておきます。

対マダラ対策本部には兄さんの暴走を止めるための精鋭部隊が存在します。正直そんな面倒な審神者なんて解雇すべきだと思うんですが、無駄に霊力?が高いので解雇したくとも出来ないそうです。

よって物理・癒し・理性・和睦・生贄・憎悪に分けて担当する精鋭メンバー…ええ、物理は言わずとも柱間さん担当です。理性は同族、ということでイタチ兄さんとサスケ兄さん(この二人は今生でも実兄でした)、和睦はイズナ兄さんです。

因みに生贄はオビトさん、憎悪は扉間さんです。これらは理性陣でも手に負えない場合に使われます。所謂怒りの矛先変更、付喪神とはいえ協力してもらっている刀剣男子を保護するためにマダラ兄さんに対しては精神的に頑丈な二人が対応した方が被害が少ないからです。

そして最後に私ですが、二つめの「癒し」に属していて定期的に兄の本丸にお泊りが義務付けられています。

私にも審神者の力はあるのですがそこはうちの一族と(前世の)夫(で現婚約者)の一族が全力で止めるのでなってません。渋面を作った役人は比較的真面な兄さんの暴走した姿を一目みせれば壊れた人形のように首を縦に振っていました。


暇つぶしの散歩で見つけた刀剣の何振りかは私の力で活動しているので、私が顕現させた刀剣男子と兄さんが顕現させた刀剣男子が同じでもこの本丸で共存しています。その一刀である燭台切光忠(私は光忠と呼んでいる)は今日も犬のように従順です。笑顔でヤンデレるところは新しいような、イタチ兄さんに似ているような……兄さんのとこの燭台切にも余所様のとこにも全く似ていませんね。


さて、優雅に長椅子に腰かけて気怠そうな顔で呼び声に応じて見れば、無駄に女子力の高い兄の初期刀に罵倒されたのが冒頭。

果たして猫と狐は同種族だっただろうか?いや、ネコ科とイヌ科と区別されていたはずだし、どちらかというとうちは一族は総じて猫よりだったはず。


兎に角兄さんを「主」と慕う彼には感服します。だってあの兄さんですから。
ああ、未だ嘗てここまでマダラ兄さんを慕ってくれた生き物はいただろうか、いやいない。

この感動をイズナ兄さんに伝えるべきでしょうか。でも役職上一緒にいる扉間さんに鼻で哂われるかもしれません。やめておきましょう。
それよりも、です。


「何ですか、いきなり」

訊ねれば形の良い眉を吊り上げて、般若の形相で再び怒られる。解せません。


「いきなりじゃないよ!いつまで本丸にいるつもりなの!」

「いつまで……さぁ?」

「っ!?そ、そんな顔したって許さないからね!あんたが俺の主に媚売ってるのは解ってるんだから!」

「……」


彼の目には兄さんは一体何に見えているんでしょうか。憐れみの視線に気づいた加州清光が「なにその目!」と怒りますが、私は彼が正常なのか医者…いえ鍛冶屋?に見せるべきなのか。


兎に角光忠、早く戻ってきて。





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