木下闇 | ナノ


▽ 孫とじじいとばばあ

事件が起こったのは何の変哲もない昼下がりのことだった。


「おーい、しっかりしろー」

「ム、リ、」


返事がない、ただの案山子のようだ。

アスマは死んだ魚のような目をした同僚を憐れんだ。





木の葉崩しから数日、本来ならば里の弱体化を悟られないよう任務に明け暮れるはずだが、現在アスマたち上忍師を含む木の葉の忍は木の葉崩しの前と変わらぬ程度の忙しさだった。つまり、待機所にいる今は暇である。

何故弱体化しなかったのかというと戦力がそこまで削られなかったこと。
里の復興に費やす人員も足りていたこと。
ちょっと出かけてきます、の一言でイタチと扉間を連れて出かけたウキナが大蛇丸の隠し財産をごっそりと奪い取ってきたため資金にも問題がないこと。
扉間とか大蛇丸とかで苛々しているうちは一族の八つ当たりで今がチャンスだと襲ってきた敵忍が全滅したこと。


全てが揃ったからの暇である。ほんとうちは一族がいてくれてよかったわ、とそこまで仕事人間ではないアスマは感謝しているが勿論そうじゃない人間もいる。


そして今回の一番の被害者は今日も今日とてこの世の不幸を一人で背負い込んだような雰囲気を醸し出していた。



「カカシ、カカシ、目がヤバい」

「うるさーいよクマ」


暗部入隊初期の目をした友は口までもがいつも以上に悪い。昔はそれで敬遠しがちだったが今は無視できる。聞いてやるから愚痴って鬱憤晴らせよ、と優しく語り掛ければそれまで伏せていた顔がゆっくりと上げられた。


「聞いて、くれる?」

「ああ」


話しは長くなりそうだ、とアスマは新しい煙草に火をつけた。






13話




よほどストレスが溜まっていたのだろう。カカシは不満をぶちまけた。


「いくらそんなに忙しくないっていってもさ、俺たちにも上忍師としての仕事以外にAとかSとか特Sとか舞込むじゃん」

「ああ(特Sはお前やイタチレベルしかできねーけどな)」


きっと三代目(親父)がうっかり忘れてた任務を押し付けられたんだろう。
そんなこと知らないカカシは続ける。


「なのに疲れて帰ったらね、『おかえり』って扉間さんが玄関にいるのよ」

「よかったじゃねーか。ってか二代目のこと『扉間さん』って呼ぶってことは仲はいいんだな」

もっとぎくしゃくしているかと思っていたアスマは安堵するが、カカシは否定するように首を振った。


「俺も最初は二代目様って呼んでたよ?一応、おじーちゃんらしいけどやっぱ火影様だったし。でもさ、当の本人が『おじいちゃん』って呼べ呼べ煩いのよ。妥協して今の『扉間さん』に落ち着いたわけ」


「へー、じゃああっちはどう呼んでんだよ」

「あっち……ああ、そのまま。今まで通り『ウキナちゃん』」


カカシもウキナの孫にあたることは知っていたが、まだ里中にイタチの妹のウキナが前世でマダラの妹のウキナだと知られていない頃だったため、表だって近寄ることはなかった。あくまで部下(サスケ)の妹に対するそれだ。

勿論バレてからは孫を可愛がる祖母として表でも好き放題しているが。その光景を脳裏に描いたアスマはハハハと笑う。


「いまじゃすげぇお前に構ってるもんな、イタチ妹」

「?アスマは『イタチ妹』って呼んでるの?」

「あー、実は俺もばらす前に“知ってた”からよ。最初は様付けしてたんだが、本人がなぁ」

「なんだアスマも気に入られてるのね」

「あ?そうか?」

「ン〜、どっちかっていうとウキナちゃんは他人の評価なんて気にしないからさ。様だろうが呼び捨てだろうが好きにすれば?って感じ。でも孫の俺は兎も角アスマにまで堅苦しい呼び方を嫌がるのはお気に入りってことでしょ」


疑問がここにきて解消され、アスマは成程な、と呟いた。



「流石孫」

「やめてよ。それより扉間さんだよ」

「ああ、そうだったな。で、何が不満なんだ」

「あのね、玄関先でふりっふりの白いエプロンつけて出迎えられるの想像して」

「あ、無理だわ」

「でしょ?視界の暴力だよ」


言い過ぎといいたいがいえない。寧ろよく耐えているなと褒めてやりたい。聞き耳を立てていた周囲はそう思った。



「なんでそんなもんお前の家にあるんだよ。彼女が置いて行ったのか?」

「いないよ彼女なんて。そうじゃなくてウキナちゃんがさ、ばらす前もよく家に来てご飯作って置いてくれたんだよ。その時持参したの、自分用と俺用って」

へー、と返そうとしてちょっと待てと思い直す。


「おいおい。お前がつけてたのかよ」

「……」

「まじか」

「…だって、仕方ないでしょ。『ダメ、ですか?』ってあの顔で言われちゃ」

「ああ、滅多にお目に掛かれない美少女だしな。性格は兎も角」

「ま、うちはだからね!性格も含めて」


二人そろってそう云った途端、悪寒がした。慌てて話題を戻すことにする。



「あ、そ、それでフリル付エプロンの二代目だったか」

「そ、そう。朝もさ、俺って結構寝汚いのよ。起きて頭働くまで遅いっていうか」

「まあな」

「朝食食べてる途中で覚醒して対面に扉間さんがいるからいつも吃驚するのよ。あれ、絶対慣れない」

「慣れたら怖いな」

「あとはね…『欲しいものはないか、おじいちゃんが買ってやる』とか『おじいちゃんと温泉街に行こう』とか矢鱈と構う。ウキナちゃんに訊いたら『ヒルゼン君と木の葉丸くんの関係見て羨ましいんですよ』っていうの。木の葉丸くんはまだ子どもだからいいけどさ、俺今年27よ?逆に苛めとしか思えない」

「きついな」

「うん。それに、」

「まだあるのか」


流石に煙草も尽きた。一箱空になるまで聞かされるとは思わなかった。



「あるある。今度はウキナちゃん」

「そっちか〜」

「そっちだよ。顔はさ、死んだ母さんに似てるからまあ懐かしいなぁとは思うの。俺って基本的に父さん似だし」

「あ?でもマスクとったら結構似てるって言われてるぜ」

「そ?ま、整ってる自覚はある」

「へーへーそうですか」



父親はサル、息子はクマと呼ばれることが多い自分たちへの自慢にきこえて軽くイラッとした。



「なーによその態度。…似てるっていっても母さん髪と目の色は違うし、性格とか気質とかも扉間さんに似てるって最近気づいたのよ。でもウキナちゃんがこの間何故か俺押し倒してきてね『おい一寸待て』大丈夫そういうことヤッテないから」


――よかった、公然と18禁本愛読してるお前だからもしかしたらと思ってたんだ。
と言ってのけるアスマを軽く殴っておいた。


「『何してるんですか』って聞いたら『ツマラナイ』って言われたの。俺に面白さ求めないで欲しいよね」

「ああ、また遊ばれたのか」


「その言い方……ま、いいけど。でも俺の家でその、ま、あれだ。年頃の息子がいつまでたっても両親の仲がいいのが複雑なように独身の孫にとって祖父母の仲がよ過ぎるのも微妙だってこと。特に夫婦だけど見た目がね」


「(イタチ妹は確かシカマルたちの二個下だったから…10、いや11くらいか?っておいおいそれで手を出してんのかよ本気で)」

「ほんとだーよ」

「あ、今声に出してたか?」

「出してないけど考えてることは解る」

「流石孫」

「だからやめてってば」

「そんなに嫌なら俺がどうにかしてあげますよ、但し命の保証はできませんが」


「「え?」」



13話






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