一次試験と主人公
ジリリリリ、と目覚まし時計の音が地下に響いた。
現れたのはヒゲをたくわえスーツを身にとまとった紳士スタイルの男性。
「ただいまをもって受付時間を終了いたします」
その穏やかな声に反した普通とは違う空気を敏感に感じ取った受験生たちは、それぞれに気を引き締めた。
「ではこれより、ハンター試験を開始いたします。こちらへどうぞ」
「申し遅れましたが私、一次試験担当のサトツと申します。これより皆様を二次試験会場へとご案内いたします」
彼が試験官だと名乗りだした頃には一斉に走り出す受験生。
開始の合図とともにカカシの鳩尾にオーラを纏った蹴りを入れて後方に吹っ飛ばしたオビトはスズに勘付かれないようにさりげなくそれを隠して、何気ない表情でしっかりと彼女の隣をキープした。
暫く流れに従って真ん中あたりを走るスズは後方から呼ばれる声に反応し、声の主へ視線を向けた。
「ねえ!俺、ゴン!お姉さんの名前は?」
そこにはこの世界の主人公とその仲間たちがいた。
邪気のない純粋な子どもの眼差しにスズも笑みを浮かべて「スズよ。宜しく」と答える。
「スズさん?可愛い名前だね!」
「ありが「俺のスズと口説くのは百年早い」……オビト」
有難うと謂おうとすると割って入ってきたオビト。瞳孔開いてるわよ。
引き攣りそうになるのを堪えてゴン君たちに詫びようとしたらどこかに行っていたカカシが戻ってきてオビトの頭を叩いた。
「何をする」
「このバカオビト!!ったく……あ〜キミ達?ゴメーンネ?このおじさん偶に変なこと言い出すから気にしないであげて」
「うん!分かった!」
「……。」
素直って時に残酷ね。
オビトの奇行は今に始まったことじゃない。いや、この世界に来てからはまだ始まったばかりね。見た目だけならレオリオ(あとで二人にも自己紹介してもらった)と同年代っぽい二人がゴン君たちと対して年の変わらない私を挟んでいがみ合う…傍から見たらシュールな光景だ。
因みにカカシはいつもの上忍スタイル、オビトは原作の忍界大戦中の服装、私は懐かしくなって前世ののはらスズの時と同じ服装である。だからか、時折オビトがガン見してくるし、カカシがすすり泣きする。うん、試験が終わったら違うのに変えよう。持ってきた予備も昔と同じやつだから着替えても意味がないだろうし。
「ここはヌメーレ湿原です。騙されると死にますよ」
試験官がそう言った。地上に出た私たちの目に映るのは霧、霧、霧。湿原の様子が隠れて見えない。こういう光景って正直未だに苦手なんだけどなぁ。
結局地下を走っている時はずっと離れていた時間を埋め合わせするように二人とおしゃべりばかりだった。
ゴン君たちはあれ以上関わるとオビトの嫉妬対象に入りかねないからね。まさかそれで主人公を消してはいけないだろう…うん、護りたいものは離れてこそ守れるって実感した。
ところで二人も念が使えるようだ。私よりも強い纏に思わず目を引く。それぞれ別の師匠にお世話になっていたらしい。
それでその師匠もここにいるっていうけど・・・あれ、だよね?
………ものすごく痛々しい外見の方と目が合いました。
顔に無数の針が刺さり、明らかに悪い顔色。
なんというか独特なデザインの服装をした男が、じっとこちらを見ている。
え、どっちの師匠さん?
カカシが気まずそうな顔をしている…嗚呼、あれがイルミさんか。
じゃあオビトの師匠って…身を震わせる殺気を感じそちらに視線を向けると…。
「……ガッ…」
「くっく、成程成程◆」
手の中で遊ばれているあのトランプの内何枚かを飛ばしたのだろう、地に倒れる男。悪質なオーラで<周>されているトランプはとても子どもの遊び道具には見えない。奇抜なスタイルで愉快と謂わんばかりに嗤う男は何気にこちらにも煽る様な殺気を飛ばしている。
ピエロだ。オビトが嫌そうに眉を顰めて「スズ、あれ見たら駄目だ」って目隠ししたからその瞬間は見えないけど間違ってなければ原作同様彼があれを仕留めたのだろう。
この試験に参加している念能力者は試験官を除いて私、オビト、カカシ、ヒソカ、イルミ。二人とも修業時代のことは詳しくは聞かないでと謂っていたから相当嫌な思い出しかないんだろう。よしよしと近くにあったカカシの頭を撫でておいた。(オビトがそれをみて拗ねたから彼の頭も撫でた。オビト、顔ヤバいわよ)
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