もしも第八班にいたら
スズは担当上忍が紅という難関をなんとか乗り越え、無事にキバ・赤丸・シノ・ヒナタと共に下忍認定された。明日の任務について説明を受けた彼らは紅が最後に向けた意味深げな視線に気づかず喜ぶ。
「やったな赤丸!家まで競争だ!」
「アンアン!」
「はしゃいでるな…キバ、赤丸、俺たちは今やっとスタート地点にたったばかりだ。だからこそもっと大人しく『キバたちもういっちゃったよシノ』……話はちゃんと聞くものだ」
落ち込むシノと苦笑しつつまあまあと慰めるスズ。
(よかった……皆優しそうだし、何よりスズちゃんと同じ班になれた)
引っ込み思案な自分には珍しく、胸を張って親友だと公言できる相手。淡い片想いをしているナルトと同じ班にはなれなかったが、もし同班だと緊張して今回の認定試験も上手く対応できなかっただろう。そうなったらナルトにも迷惑が掛かるし、最悪の場合嫌われてしまうことを考えればこれでよかった、とヒナタは思った。
だからこれから一緒に頑張っていく三人と一匹の背中を優しく見守っていたヒナタは自身も帰路に着こうとした。そのとき、
「……日向ヒナタだな」
「だ、だれ?!」
背後から声を掛けられ、慌てて振り向く。そこにいたのは見慣れない顔に傷のある男。左目は額当てを眼帯代わりにして隠されているが、残った右目の周りに刻まれた押しつぶされたような痕に小さく悲鳴を上げる。
男の放つオーラも只者じゃないと下忍なりたてのヒナタですら理解した。
「あ、貴方は…一体」
「俺の名前は……そうだな、トビとでも名乗っておこう」
高圧的な物言いに気圧される。“トビ”と名乗った男から今すぐ遠ざかりたいと感じたが、その男が真顔で見つめる先…全く逸らされない視線の先を見てしまっては逃げることなんてできなかった。
「トビ…さん、は……スズちゃんに何か用があるんですか?」
そう、親友といってもいい少女の遠ざかっていく背を食い入るように見つめていたのだから。
(もし危ない人なら…スズちゃんは、私が守る!!)
まだまだ忍としてもひよっこ、日向では落ちこぼれの自分でもスズを狙っている(かもしれない)男を放って逃げるなんて出来ない!
そうヒナタは決意を胸に、真っ直ぐトビを見据えた。
「誤解するな……俺がスズに危害を加えることはまずありえない。…寧ろ逆だ」
「逆?」
「俺はスズを守りたい…俺の命に代えてもだ。俺にとってスズの存在はこの世界で唯一の光明……スズのためなら死すら恐れるモノではない」
男の語る内容は果てしなく重い愛情が籠められていたが、ヒナタはそれに軽く引くが、同時にどこか共感するものがあった。
「貴方は…」
「俺がお前に話しかけたのは他でもない。お前がスズの親友と見込んで頼みがある。それは、
これからスズの写真を任務時・プライベート問わずカメラ目線で撮影し俺に寄越せ」
沈黙。
「……それは、犯罪です」
「違う。これは交渉だ。お前は俺にスズの写真を渡す。代わりに俺はお前にうずまきナルトの写真を渡そう」
「…ッ!?」
「フッ、そうだ。アカデミー時代とは違いこれからお前はうずまきナルトとは殆ど会えなくなる。ナルトの姿をその目に映すことが困難になってくる……が、俺には奴の写真を撮ることが可能だ。なんならカメラ目線も手に入れてやる。悪くない話だろう?」
「……」
ほ、欲しい。ヒナタの心はどこまでも純粋にその言葉を繰り返し吐き出した。
勿論ナルトの写真はヒナタも何度も撮ろうとした。しかしいざ本人を前にすると緊張して話しかけることすらままならない。結局集合写真やスズに協力して撮ったツーショットが一枚のみ。ヒナタはもっと沢山ナルトの努力している姿が見たかった。男がスズを光明だと謂っていたが、ヒナタにとってナルトは太陽だ。
そう、トビと名乗る男とヒナタはどこか似ていた。
「さぁ、俺の手をとれ」
「……ほんとに、スズちゃんに酷い事しない?」
「俺の目に誓って約束する」
ヒナタは男が差し出した手を取った。
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