おぼえていますか | ナノ
オビトが暁を脱退した後


小南視点



「トビが、いや、オビトが暁をやめた話、あれは本当か?」
「ええ、今、その話で持ち切りよ」

 垂れた前髪を耳にかけながら知的な美貌を漂わせる女は、傀儡で作られた表情が人間のように歪められた男に向かってそう簡潔に答えて見せる。ウザいだけの新入り、トビと名乗るあの男をいつも胡散臭そうに見ていたサソリは、薄々だが奴の正体に勘付いていた。“うちはマダラ”を名乗る阿呆の正体がなんであれ、ほんとにこの世界を壊すつもりなのか行く末を見たいと思っていた。それがまさか、この妙なタイミングで無くなるとは。理由が明かされた時、心底くだらねぇと吐き捨てたのはついこの間である。

 そんなサソリと同様に、理解不能と切り捨てた小南は再び口を開いた。


「貴方はこれからどうするの?」

「どうもこうも、ただの傭兵部隊に成り下がったにしても、ここは利用価値がある。俺の様な抜け忍には特にな。今までと変わんねぇよ」

「そう。」


サソリらしい、と思い、小南は小さく哂った。そして今はもういない男を思い浮かべる。


小南は彼が本物のマダラであろうとなかろうと、ペインを裏切らないならそれでいいと思っていた。だからあの男が正体を明かし、組織から脱退すると云われた時はどう殺してやろうかと目を細め、奴の隙を伺っていたのだが、同時に臥せていた顔を上げた男の眼差しに宿る光の眩しさに、小南は目を見開いた。

(弥彦・・・?)


本来なら有り得ない。
自分たちの光だった友と重なった。


ペイン、いえ、長門も同じだったんだろう。戸惑ったような、だが懐かしいと聲が震えていた。


 あの男は誰でもいたくないと謂った。自分はマダラであるといいつつ、それは一種の破滅への記号だと哂った男が、

 嘗てあの奇妙なお面の穴から覗いた、真っ暗な洞窟の奥を思わせる光の無い目を持つ同一人物だと思えない、仮面を外した、本当の表情で私たちと向き合った男に変わっていた。

信じられない気持ちで見据えた背中は真っ直ぐと前だけを見ていた。

何が彼をそうしたのかは解らない。それでも、それが、


(本当の貴方なのね、オビト……)


今なら少しだけ、偽りの仮面を被り続けた男が好きになれた気がする。



 

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