おぼえていますか | ナノ
01


ガヤガヤと騒がしい教室は始業のベルが鳴るまでまだ時間があるためか、登校してきた生徒同士の挨拶やおしゃべりが飛び交う。

教科書を読む者、昨日の話題を話すもの、忘れてきた宿題を必死に解くもの、朝っぱらからお菓子を食べる者、一人静かに座る者、数人のグループで会話を楽しむなど。


ガラリとまた一人登校してくる。


「あ!おはようスズ」
「おはよう」


その少女に気づいた二人の少女はいがみ合っていたのを止め、彼女に話しかける。

『おはよう、サクラ、イノ』


スズ、フルネームではかがちスズという。くノ一はそれぞれ色鮮やかな忍服を個性豊かに着こなしているが、この少女は珍しく白と黒の華美じゃない服装。この年頃なら少し不自然だが、少女自身の雰囲気は同年代より大人びたもので不自然さはない。両頬には犬塚一族ではないが、それとよく似たものがあるのも少女の特徴だった。


姉と妹、そんな雰囲気が三人の間に流れている。スズを交えて二人だけでは喧嘩腰しだった会話も穏やかなもの。しかしイノとサクラの意中の人が登校してくれば再び我先にと彼の下に駆けだす。残されたスズは別段気にした様子もなく、辺りを見渡してとある少年の隣に腰かけた。




『おはよう、シノ』

シノと呼ばれた少年はサングラスに口元も上着で隠されているという出で立ちに無表情に近いが意外と繊細な少年だ。スズに話しかけられても「嗚呼、今日は遅かったな」と淡々と返すものだから二人の仲は悪いのか?と聞かれればその実、恐らくお互い一番と謂ってもいい仲であった。

勿論男女という違いがあるし、スズは同性から頼られる善き姉御肌な少女だから友人は何かと敬遠されがちなシノよりも多い。それでも二人ともペアを組めば負けなしという相性抜群な少年少女だった。



「おい、つめてくれ」


そんなほのぼのとした二人に割って入る様に話しかけたのはどこか疲れ果てた様子のうちはサスケ。イノとサクラの想い人である。


『おはよう、サスケ。今日もお疲れ様』
「おはよう。だがここではなく他の席にも空きは「いいから早く」・・・人の話を遮るのはよくない」


長々としたシノの科白にうんざりしたように急かすサスケにスズが「こらっ!」と小さく睨むと隣のシノの頭を撫でる。子ども扱いのそれも彼女がやるとどうしても拒否できないのが不思議だ。それでも二人とも少し横にずれ、一人分のスペースを作る。

サスケはさっさとそこに座る。スズを間に教卓からみて左にサスケ、右にシノが鎮座した。これがいつもの光景である。


『偶にはイノたちと座ってあげなさいよ』

「そう思うならあいつらのおしゃべりをどうにかしろ」

『あら?賑やかでいいじゃない。静かな方がいいならシカマルたちもおすすめよ?』

「・・・朝っぱらからボケーっとしてる奴や菓子を食ってる奴がか?それよりスズ、この間話していた火遁の術だが」


シノを置いてサスケは巻物を取り出し、スズと忍術の話をし出した。それに時折助言も交えて説明するスズの横顔をシノは眺めつつ、また今日もあまり話せなかったと溜息をつく。



暫くして、担任のイルカが朝の挨拶と出席を取り出した。流石にサスケも今は黙る。
油目、うちは、かがち、三人とも初めの方で名前を呼ばる。


―かがちスズ
―はい。

挙手を下ろし、次の名前が呼ばれていく。


隣のシノは彼女より先に終えている。名前を呼ばれ終わった者は隣の人間と小声で話はじめたり、サスケは巻物に視線をおとす中、スズも大人しくする気はないらしい。

クルリと左を向き、聞こえるか聞こえないかの音量で口を動かした。

「−・・・・−」


(・・・・っ!!)



音が聞こえなくともシノは読唇術を心得ている。
「―・・・・・―」



二人とも先生のお話中に会話をするような生徒ではないため、その後は口を閉ざした。
それ以降、次の休み時間が来ても、またスズは他の友達に呼ばれあっちこっちに引っ張りだこにされるため二人が会話らしい会話をすることはなかったが、それでも二人とも不満はなかった。



(『ごめんね』)
(『気にするな』)



そんな小さなやり取りを二人は繰り返していた。




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