おぼえていますか | ナノ
17



 私の意志とは関係なく自然と零れ落ちた滴。私がそれを何なのかと理解するより早く、オビトの言葉を、表情を、何度も反芻した。

 何かを云おうと口を開くが金魚のようにパクパクと音にできず空いたままで、それでも私の言葉を待ってくれるオビトはやっぱり優しい人なのだと思った。


 この世界はのはらリンの世界じゃない。私はリンであって、リンじゃない。そういった私を認めたはずだった。だけどリンのために世界中の全てを敵に回した<オビト>を知っている以上、どうしても彼の前だと虚勢をはることもできなかった。


オビトにそう言われ、胸の奥で軋んで、音を立てて。 胸がギュウギュウ締め付けられるようなこの痛みは、きっと悲しいからじゃなくて。

 自分勝手な私を知っても好きだと云ってくれる。応えなくてもいいと、好きでいることを赦してほしいと強請る彼を堪らなく愛おしいと思った。

 私を見やる目は優しさと溢れんばかりの恋情に満ちていたような気がした。 私の自惚れと思わせないような強い眼差しからは逸らすことなんて出来なくて。



……私はここにいていいんだと、やっと実感できた。オビトへの想いが私自身のものだと認められた。



必死に首を振る。オビトに伝えなくちゃ。伝えたい。


「スズ?」

「あのね、あのね、私、」


…――オビトが好きよ



 その一言に、今の私の想いを乗せて。
オビトの驚愕で目を見開いた様が少し子供っぽくて笑う。


 胸がキュンと締め付けられ、なんだこんなにもオビトの事が好きだったんだと、鈍い自分に苦笑をする。


「前にした約束、もう一度してもいい?」

「約、束…」

「うん。約束」

「でも、俺、もう」


破ってしまった。そう続けるオビトに首を横に振る。違うよ。


「火影になる、絶対に諦めないで頑張るって、その代わり私はオビトの傍でしっかり見守るって約束した。でもオビトは私が先に破っても、ずっと頑張ってた。あの戦争でオビトが死んだと思った後から私が死ぬ間も、諦めなかった。帰ろうとして頑張ってた。その後も自分の思う『世界を救うための努力』を重ねていた……私ね、カカシに胸を貫かれて、ああもう私死ぬんだって思ったとき、オビトを見たの。泣きそうな顔をしてボロボロの身体を必死に動かして来てくれたオビトを見て、一度全部思い出した。自分の事、リンの事、これからのオビトの事。
後悔して後悔して、このままじゃいけないって思ったんだ。神様がそれで手助けしてくれたのかもしれないけど、私はまたこの世界で生きている」



 痛い、苦しい、悲しいと謂えない子ども。
 夢の中のオビトは、そんなどうしようもない運命に寂しいと声を上げずに泣いた子どもだった。そんな貴方を抱きしめて守りたかった。


「私を見つけてくれてありがとう。私は一生懸命頑張るオビトが好きよ。いつも私のことを見ててくれて、いつも守ってくれて、ずっと優しくて。私のことほんと好きなんだって、ずっと頑張ってくれる」


…――だから私も貴方を好きになった。


「私が貴方の傍にいることを赦してくれるなら、私を好きだって言ってくれる貴方を受け止めるわ」





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