16
オビト視点
スズが云った話は全部信じ難かったけど、それが真実だった。
それと同時にずっとスズの顔を曇らせていたのはカカシであり、俺であり、スズが負い目を感じていたのはらリンだった。
俺が知っている君はリンに罪悪感を抱いて、後悔して、ずっと自分を責めて、だけどそんな優しい君だから俺は…――。
正直な話、のはらリンについてスズの口から語られようと俺には解らない。俺が知っているスズと変わらない。話を聞き終わっても、寧ろスズにとってこの世界に生きる人間が物語の登場人物であるように、俺にとってリンとは好きな小説のキャラクターでスズと重ねたから好きになれる、そんな存在でしかない。
リンは最後まで<オビト>と約束を守ったとスズは云った。確かにその<オビト>が羨ましいとも思う。だけどな、
「俺は逆にスズでよかったと思ってる」
「えっ、」
だって君だからこそ、俺は<オビト>よりも早く、もう一度君に会えたから……否定したはずのこの世界を認めることができたから。
「それに今のスズは前の自分もその前の自分も覚えているんだろう?」
「う、うん。だけど!」
「俺は俺の目の前にいるスズが好きだ。」
「っ!?」
「好きで好きで仕方ない。誰の目にも映したくない。触れてほしくない。俺だけのものにしたい。そんな醜い欲望でスズを押しつぶしてしまいそうになって、この間みたいに勝手に暴走してる」
「それって……でも!」
「解ってる………スズの云う『リンのために世界を壊そうとしたオビト』と同じだって。
俺も5年前にスズを見つけるまで『月の眼計画』を実行しようとしていた。約束したのに俺を見ていてくれるか解らないスズを恨んだことだってある。唯の骸となったスズを俺の中に閉じ込めて、世界への憎悪を膨らませる、そんな毎日だった。」
脳裏に甦るのは冷たくなったスズの身体を抱いた感覚。カカシに貫かれた胸の風穴。
美しいはずの月光ですら信じがたい事実を俺に突き付けてくる。息を吹き返してほしくて重ねた口唇も意味がない。ただ虚しく、氷のような冷たさと血の味だけが残った。餓鬼の頃から夢見た彼女とのキスとは程遠いものだった。
「だけどその最中、君を見つけた。あの時の歓喜はきっと……スズにも解らないさ。嬉しくて嬉しくて、俺は捨てたはずの自分をもう一度拾うことができたんだ」
スズを見れば、静かに涙を流していた。いつもならスズを泣かしたと焦燥する俺だが今は違う。
…――生きていてくれてありがとう。
…――生まれてきてくれてありがとう。
…――俺と出会ってくれてありがとう。
ああ、ほんとに今無性にスズに触れたい。
「君を好きになったことを俺は後悔しない。リンのことで悩んだ君を抱きしめたい。俺の傍にいて欲しい。だが俺の想いに応えてほしいとは云わない。ただ、……
スズを好きなことだけは赦してほしい」
prev next