おぼえていますか | ナノ
13


オビト視点


 神威空間から外に出る。今日も面はしていない。左目には殉職した同胞から貰った目が収まっているが、両目揃いじゃない分僅かに違和感が生じる。だがもう慣れたものだ。あれから時空間に隠したスズの傍にはいかないまま、色々と考えた。一日くらいだろうか?もっと時間が経過したと思ったが、意外と短かった。今すぐスズに会いたい。でもその前に、もう一度あの少年の姿を見たいと思ったんだ。


 うずまきナルト・・・ミナト先生とクシナさんの息子。九尾の人柱力。
里から忌み嫌われながら生きてきた子どもは、それでも真っ直ぐな眼差しを持つ子どもだった。火影を夢見る子どもだったんだ。嘗ての俺と同じ夢を持っている子ども。興奮と不安、だが火影になった自分を想像したときの、言いようのない気持ちを思い出させてくれる。ずっと追いかけている、描いた未来への渇望。

そして、


 <頑張れオビト!火影になってかっこよく世界を救うとこ見せてね!>

 <約束だよ!>


 スズと交わした誓いが何度も頭を過る。行こうと先生のところまで繋いだ手の温かさも忘れない。忘れたくないものだった。それを俺はなぜ忘れていたんだろう。カカシが俺との約束を裏切ったことなんて最早どうでもいい、大事なのは俺がスズとの約束を守らず、勝手に絶望して先生を、里を、世界を敵に回したことだ。


…――嗚呼そうか、スズと合わす顔がないから偽りの都合のいいだけの世界を創りたかったんだ。


 だけど、それが間違っていると漸く解った。いや、認めることができた。
 うずまきナルト……引きこもっている間、あの子のことを何度も思い出しては捨てたはずの嘗ての自分を取り戻した気がする。先生にもクシナさんにも似ている子ども。なんで俺はあの子から俺と同じ苦しみを、それ以上の孤独を与えてしまったんだろうか。先生たちにも合わす顔がない。ここ最近の俺は、恐らく生きているスズに会えた喜びで暴走していたんだろう。

 スズを今度こそ守りたい。そう決意し、彼女を見守ってきた。あの日彼女をもう一度見つけた日から、ずっと…ずっと。 ただ静かに、そっと離れたところから守りたいという気持ちを覆い尽くす様に独占やら執着やらの欲望は段々膨らむ一方。気が付けば仮面をつけてスズの前に姿を現し、終いには自分勝手にもスズに自分の醜い感情を押し付けようとした。


「好きだ」と伝えたい。

 だが約束一つ守れない俺が、今更スズを手にする権利があるのだろうか?


 冷静になって考えてみると、あの時スズに嫌いだと云われたのも仕方ないだろう。だけど脳裏に甦る、俺を見上げるくりっとした琥珀色の瞳。肩までの亜麻色の髪。温かく優しい陽だまりのような笑顔。傷を隠し、見栄を張った俺を咎める聲。真っ直ぐな眼差し。「ずっと見てる」という言葉と行動。「頑張れ!」と云ってくれる時に握られる拳。…嗚呼、どれもこれも愛しくって仕方ない。

 スズ、好きだ。大好きだ。俺は君が好きで好きで仕方がない。

(屹度これからもスズ以外はどうでもいい)

 もしまた俺からスズを奪う世界でも、今度は壊す気にはなれない。

(だってスズはそれを望まないから)

 それでも、


…――もう、誰の所為にもしない。


手に入らなくても、俺が君を想うことだけは赦してほしい


 ナルトたちの居る場所に付くと、隠れて修行を見ているスズの背中が目に入った。思わず自嘲気味に哂う。なんだ、数日スズに会えないショックで等々幻覚でも見えたか。意図的にではなく無意識に作り出した幻影かもしれない。なぁ、幻なら俺の欲しい言葉をくれよ。

 さっき決めたことすらスズが視界に入っただけですぐに揺らぐ。あれ、でも今俺写輪眼発動してんのになんで幻術にかかってんだ?術を解くべく幻術返しを繰り返しても消えない。あれ?万華鏡写輪眼で見ても、そのスズは本物と違わずチャクラを宿していて…え?は?


(いやいやいやいやこんなところにスズがいる筈がないだろう?!!落ち着け、あれは幻術だ。きっとカカシの野郎が一人ぼっちで寂しいからとか何とかで作り出したんだそうだそうに違いない俺の天使を穢しやがってちくしょう覚えてろあの屑が!)


 そう脳内でカカシを呪いつつ、足は勝手にスズ(多分カカシの幻術)の近くへと動く。通常の三倍の速さで移動してしまった。

 近づけば風に乗ってスズの優しいシトラスの香りが漂ってくる。
くそっ!匂いまで同じとか、カカシの奴どんだけクオリティー高いんだよ!!

 一歩踏み出し、腕を伸ばせば届くほど近づく。そしてそのとき俺は自分の耳を疑った。


 「オビト、好きだよ」



俺、たとえ幻術でも今なら死んでもいいかもしれない。




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