おぼえていますか | ナノ
05



次の日、結局また“いつも通りの”日常を送っていた。

ただ自室の窓際の机上には少し大きい花瓶に活けられた華の薫りが広がっている。


その残り香を纏ったまま、私はイタチさんと遭遇した。


「こんにちは、スズちゃん」

「こんにちは」

……正直な話、前回(シカマルの助けもあって)尋問もどきから逃亡したので、会いたくない人物。
でも今日は様子が可笑しい。「ちょっといいか?」と連れられたが、いつもの店を通り過ぎて森の方へ進むから不安になってきた。


「あ、あの…」

堪らずどこまで行くのか、尋ねようとすれば

「…ここだ」

「わぁ!……」


双眸に映るのは大きなログハウス。里にこんな家があるなんて、と吃驚を隠せない。(スズは精神的に不安定なため、道中通ってきた術に気づいていない)

イタチは我が物顔でその家に入った。続いて入口を潜ると、ふわりと薫るものに覚えがあった。

(え?これって・・・)

何度か危ない目にあったとき、助けてくれた際に微かに香ったオビトの匂いだ。

戸惑うスズを気にせず、イタチは「これは独り言だ」と前置きして、自分と仮面の男のことを話した。(さすがにクーデター云々は云えないため、大分ぼかした上に、トビの御蔭だと強調するはめになったが)

ジッと聞いていたスズは、時折息を呑んだような音を洩らしたり、ピクリと肩をゆれ動かした。だがスズに背中を向けていたイタチはその様子を空気で感じる以外、自身の目で確かめることはしなかった。


「それでその男は今、波の国へ向かっている」

「………」

「もし君もそこに行きたいというのなら、明朝5時、火影岩の前にきてくれ」


イタチがその後、誰もいない自宅まで送ってくれたが、二人の間に会話は無かった。

(私は……、)


イタチに聞かされた話はまさに目から鱗だった。イタチは明言しなかったが、うちはがクーデターを企んでいてイタチが彼らを原作同様皆殺しにしていただろう『未来』を変えたのがオビトだったのだ。

ああ、やっぱりオビトは私の知っているオビトなんだ・・・

“知っている”世界と異なる現実に戸惑い、今と私の思い出にあるオビト、その両方が重なった。どうしても漫画の世界だと、オビトに関しても所詮原作と同じかもしれないと勝手に思い込んで、どれが本当か見ていない、傍観体勢のままだった。

でも私が抱いているこの気持ちは前と変わらない。オビトを支えたい、オビトの傍で見守りたい。約束を、今度こそ守りたい――・・・


ここは“のはらリン”の世界じゃなくて、“かがちスズ”が生きる場所だ。

リンと同じようにカカシが好きだった。リンと違って生まれ変わった時代で好きな人がいっぱいできた。でもね、私が今も昔もオビトに抱いている気持ちは同じなのよ。リンはカカシが好きだった。でも私は?本当にカカシのために何でもできたの?

おぼえていなかっただけで私は無意識に自分の生を否定したくないと、リンに成り代わった一生を送ったのかもしれない。
少しでも違う行動をとれば、私が何なのか、存在を否定される恐怖に怯えていたのかもしれない。

だけど今の私は私以外の誰でもない。私の知らない物語なら、それは私の生きる世界だ。誰もが自分の未来を知る筈もないのだから・・・。


(あと少し、あと少しで、何かが・・・)

自分を肯定できる、否定し続け、それでも消せずに隠してきた想いも認めることができる。

うじうじとじれったい自分が嫌になる。まだ明るい空を見上げていると、


「スズちゃん?」

「……ヒナタ、」




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