おぼえていますか | ナノ
03



樹海の中にひっそりと身を隠すように佇む木造家屋はオビトが作った暁のアジトとは別の隠れ蓑に使っている家だった。所せましと並べられているのは、ここ数年で入手したスズ関連のもので溢れかえっている。オビトにとって暁のアジトよりも穏やかに休息をとれる、数少ない場所だった。


血の付いた外套を脱ぎ棄て、新しい服に着替える間に、勝手知ったるイタチは前に来た時に置いて行った自身の湯呑を戸棚から取り出し、熱々のお茶を注いだ。当然ながらオビトの分は用意していない。

オビトは犯罪者だ。指名手配はされていないが、超S級犯罪者の筆頭ともいえる悪行を重ねてきた男である。だがその犯罪者の気まぐれがなければ自身もその一人に身を落としていただろうと理解しているイタチは、今更彼との付き合いをなくすことはできない。

何より里外の情報をオビトほど素早く正確に把握している人間とのパイプを切ることは、イタチにとっても大損だ。だからこそ、木の葉の人間は殺すなという契約を結んだだけで、オビトの求める情報提供をしてきた。


先ほどオビトが無残にも惨殺した死体は、実は全て里内部に侵入していた他里のスパイだったりする。流石のイタチもまさかただ機嫌が悪かったからで殺したとは思わず、オビトはそのことも理解した上で奴らが何か彼の琴線に触れる話題を出したのだろうと考えていた。
元マダラの印象が強いせいで、イタチはかなりオビトを過大評価しているのである。

取りあえずあの場を後にして、詳しい話を聞くために何度か訪れた隠れ家に足を踏み込んだ。



「またせたな」

「…いや。」


会話終了。元々饒舌じゃないイタチと最近は寡黙キャラを貫いているオビトでは会話が弾むことなど、天変地異の前触れだ。十尾でも復活したら話は変わるが、基本二人は淡々と要件を伝えればその場を去る、このスタンスである。それなのにイタチのマイ湯呑が置いてあるのは、単にイタチがこの家をうちはの嫡男ではなく、ただのイタチとして落ち着きたいときに訪れるためであり、オビトとお茶をするためではない。


序でに云うと、里内でのオビトを監視しているイタチはつい先日あったオビトの失恋(とは言葉でいうのは簡単だが、その実オビトの荒れようは酷く、当初は忍界大戦でも始めるのではと警戒してしまった)も把握していた。イタチとしたらスズはサスケの嫁に、と思っていたので内心「いい歳こいて…はっ!ざまーみろ」と鼻で哂ってやりたかったが冗談でもそれをしたら里を潰されかねない。

だがこれでも同族、共犯者。並べればいくつでも共通点があがる目の前の男に対し、僅かな良心が動いてしまい、気が付けば口がその言葉を口にしていた。


「里の人間で憂さ晴らしをするくらいなら里外の犯罪者で気分を晴らして来い。その後、もう一度彼女に告白でも玉砕でもして、いい加減その鬱陶しいオーラを止めろ」

――まあ他人に八つ当たりするような男を選ぶ人間はいないだろうがな。と続く言葉は心の中で止めた。

当然ながら相手にはその言葉が聞こえるはずもなく、表面上の科白だけ(それも都合のいい部分のみ抜粋)受け取ったオビトの顔を見て、イタチは後ずさりした。何故って、言葉では表現できないくらい気味の悪いものだったからだ。


「そうだ、その手があったか。ナイスだ、イタチ」

「はっ?」


そうと決まればここから一番近くにいるろくでなしは……波の国だな、今すぐ行ってくる!と紙の束をバラバラと捲りながら一瞬思案して、神威による移動を始めた男の姿が完全に消え去った後、残されたイタチはポツンと呟いた。


――波の国って、今カカシさんたちがいる所じゃなかったっけ?と。


果たしてオビトの云う『ろくでなし』はあの国にいるガトーなのか、そのボディーガードの抜け忍なのか、元恋敵なのかは解らない。



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