おぼえていますか | ナノ
02




「スズに嫌いって言われた……」


今のオビトの心情はとても言葉では言い表せないくらい荒れに荒れている。

内心の荒れ狂う波を必死に理性を総動員させて押さえながら一刻も早くあそこから立ち去ろうとした彼の前に、飛んで火にいる夏の虫(といっても夏にはまだ少し早い時期だ)のようにすれ違った男達の話題は、今一番聞きたくない人間の名前が挙がったので足を止めた。


「それでそのスズって餓鬼とアスマ隊長がねぇ〜」
「おいおい紅さんはどうしたんだよ」
「餓鬼の方が無理矢理迫ったってきいたけど」
「まじか、いや〜女は怖いねぇ」


その後に続く、口々に聞くに堪えない下世話にオビトの中で濁流の如く、堰き止められていた澱んだ感情が溢れ出た。



気がつくと、戦闘とも呼べない一方的な暴力行為の成れの果てのように足元に広がる血の海は、何時ぞやの光景と既視を感じて荒れ果てた心情をより一層壊していく。

一歩、一歩と踏み歩く毎に、足元にごろごろと転がった欠陥死体の生首を蹴り上げてしまう。
猟奇的な殺人を好む気は無かったはずだが、子供の癇癪のように唐突に激情を吐露するたびに「嗚呼、またやったのか」と悲惨な現場に、コートについた血痕を見て溜息をつくことが多かった。

里のために、って本気で何かを成し遂げる決意もない奴らが、頭の中でスズのことをあれこれ想像することにさえ吐き気がするのに、顔を合わせれば始める下賤な会話の途中に俺と見事遭遇してしまった奴らの運がなかったとしかいいようがない。

飛段じゃないのだから、殺しに飢えているわけでもない(寧ろスズのために今更だが善人になる努力をしてみる予定だ)にも関わらず、殺しても納まることを知らない苛立ちに自分でも嫌になる。

オビト、と呼ばれて振り向けばイタチが立っていた。もう察知して逸早く駆けつけたのか、里内に入るたびに監視として鴉をつけてくるコイツの存在を忘れていた。恐らくこの凄惨な現状に何か言われるのだろう。


「また、か。お前はまるで子どもだな」

「・・・ガキってのは、落ち着きのないせっかちのことだ」

「やっぱりお前じゃないか。それでどうした?お前の感情一つで触れ回される世界が哀れだ、いい加減年相応に落ち着きを見せろ。」


――お前がガキじゃないっていうならな。


そう述べるイタチにオビトは少しだけ冷静さを取り戻した。

***

後書き
何だかんだで手を差し伸べるイタチ兄さん。
因みに「ガキっていうのは〜」はマダラさんの科白。




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