おぼえていますか | ナノ
01


「ここは…どこだって?

…そうだ、俺は地獄に居る」



そこは、血塗れた骸が夥しいくらい血の池に沈んでいた。
冷たくなった小さな少女を抱き抱えながら、そんな地獄の底で暫く項垂れていた少年は自身も血塗れになっていながらも顔を上げ、冒頭の科白を呟いた。

何故俺は生きているのに君は死んだ?
一度自身の死を悟ったはずだ、あの神無毘橋でカカシを庇い、左目の写輪眼を譲り渡して。
そして君を守るよう頼んだ・・・


   それがどうしてこうなった!?

嗚、この現実を否定したい。生きることを否定したい。君が死んだことを否定したい。君がいない世界を否定したい!!


だが、どれだけ“否定”し続けても腕の中の君がこれを現実だと俺に訴えてくる。

視線を左胸の風穴に向ける。
なぁ、どんだけ痛かったんだ?
好きな奴に殺されるなんて、苦しかっただろう?


君はいつも笑っていた。笑っていた。
君は凛とした強さを持ち、誰もが相手にしなかった俺の言葉を真っ直ぐ信じて、認めて、応援してくれた。頑張れって言ってくれた。


だからこそ君に見せたかった。証明して、俺の隣に立ってほしかった。
そんでいつか必ず、ずっと言えなかった言葉を伝えたかった。



君はいつも笑っていた・・・笑っていたんだ。それなのに最期は泣いていた。木の葉を護ろうとカカシに殺されることを選んだ。


此処にいるのは生きたスズじゃない、
その顔は幸せそうじゃない、絶望と恐怖が入り混じった死に顔。



今のこの現実は地獄だ。
こんな地獄にスズは似合わない。
そう、彼女には似合わない。


ならば





『夢だからなんだって思い通り、死んだ人だって生きていることにできる…



勝者だけの世界…


平和だけの世界…


愛だけの世界…




   それらだけの世界を創る…』




君の世界は…終わっていない。
こんな地獄に居るのは間違いなんだ。だけど君は抜け出せない。他に行くところがないんだろう?


ならば創ればいい・・・そう他でもない、俺が創ろう。


『この世の…因果を断ち切る…っ!!』

全ては君のために。

生きてこその、笑ってこそのスズだ。ここで死んだスズは偽物でしかない。


君の世界を、夢を創造するのはあの男じゃない、オレだ。
だから利用してやるさ、君のために・・・


裏切りのない世界を
嘆きのない世界を
憎しみのない世界を
血まみれではない世界を…創る




そう、世界中の奇麗なものを集めて、創るよ。
そのためにはこんな現実は・・・もう、どうでもいいよな。


壊せばいいとオレの中の『ナニカ』が訴える。
その激情に身を任せよう。


スズ・・・

もう一度・・・

もう一度君の居る世界を創ろう。



そして


『オビト!!』


あの陽だまりのような笑顔を、もう一度俺に下さい。新しい世界の先で、また笑ってくれよ。

そのためなら、俺はいくらでも頑張れる。



でも、この地獄に偽物でも君の身体を置いていけない。こんな世界に君を置きたくない。


カカシに渡さなかった片目が痛んだ。痛みに耐えるようスズの身体に顔を埋めていると見る見る消えていく。完全に消えた頃に俺のナカに感じる感覚。

嗚呼、そうか、


「スズはココにいるんだ」


押さえた目の中に、瞼を下ろせば、見える。
少年、いやオビトは創るべき世界を知る者の下へ足を向けた。



















チュンチュン…。小鳥の囀りと差し込んだ朝日を眩しそうに眼を細め、ゆっくり起き上がった少女は呟いた。


「またあの夢・・・・」




・・・その少女は先ほどまで冷たくなっていた少女とよく似ていた。





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