おぼえていますか | ナノ
02





里の外れとはいえ、身内贔屓の強い一族らしく集落内はどこか温かいつながりがある。

道に水を撒くおばちゃんは俺の時もよくああやって朗らかに笑いながら煎餅を売っていた。
奥で新聞を読むおじさんも、行きかう子どもを時折楽しげに見つめる。

出勤する警務部隊の人間。
買い物かごを持って歩く女性。

 なにもかもが“日常”、明晩に殲滅されることなど知らないからだ。


クーデターを企んでいることを知っている者も、知らないものも、不条理に殺される。
生かされるサスケに残された道もまた、決して勧められたものではない。進むことが厳しい、険しい道だ。

死んでも生きてもいいことはない。これがあの誇り高かった一族の末路か。


オビトは仮面の下で哂った。



夕暮れ時、イタチとの最期の打合せ場所は南賀ノ神社の、誰にも見つからない林で以前話した通りのもので落ち着いた。イタチの条件でもある『サスケには手を出さない』ことを誓った後、こんなとこに長居は御免だと、足早に立ち去ったイタチの背中を見つめ、自分も消えようとした。

ちりん――鈴の音が聞こえた。


リンリンリン・・・軽やかな音が単調ながらも耳を楽しませる。

無意識に音を頼りに足を進める。根付けを腰に着けた少女がいた。

夕暮れのオレンジ色に染まる景色の中、穏やかな横顔が目に焼き付いた。
肩口までの濃い赤毛がその光で透き通るように毛先を金色にも見せた。

小さな少女だった。今朝見たイタチの弟のサスケと同じ年頃らしい、小さな女の子。
だがその横顔はどんなものよりも強力な衝撃をオビトに与える。


絶えず脳裏に鳴り響く警告音。もしこれ以上近づいて、あの子がただの女の子ならオビトは今以上の絶望を感じるだろう。一瞬でも期待した分、どん底に落されるだろう。


だが身体は彼女を求めていた。彼女の熱を、吐息を、鼓動を、“生”を求めていた――・・・。


口でも心でも彼女の名前を言ってはいけない。云ってしまえば、取り返しのつかない所にいってしまう。あの日地獄の中で誓った世界を覆るような力を持っている少女にオビトは恐れた。


数秒、ただじっと遠くを見つめた少女はすぐにどこかへ消えてしまった。
その間、オビトは瞬き一つせずその動き一つ見逃さないと狂気じみた目で観察していた。




少女が消えてから初めて、オビトは動いた。
少女が消えてから対して時間が経過していない景色を、少女が見つめていた場所を、オビトはその地に立って見つめた。


今まで全てが灰色に見えた景色が小さく揺れた。
風が靡き、里の匂いを届けた。


あの子は…ここから、何が見えるのだろうか・・・


珍しく、その晩オビトは棺の下にはいかなかった。




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