おぼえていますか | ナノ
01





すり抜ける。
どんなに抱き締めたくても、どんなに触れたくても、スズは俺の手をすり抜けていってしまう。

待ってと叫んでも届かない。



神威空間の奥底、この空間には自分以外誰も入ることが出来ないと解っていても何重にも張り巡らせた結界。その先に作った、幻術の世界。


事切れたスズを否定してもこの物言わない骸を壊すことが出来なかった。
ゆっくり、大切に、百年に一度しか咲かない華を運ぶように慎重に扱った。

おとぎ話のような透明な棺に収まるスズは、触れれば冷たく、固い。まるでサソリの作る人傀儡のようだ。
腐らないように時を止めたような空間をマダラのした月読の世界のように俺が作りだすには不安定で、数年は四苦八苦していた。


意味のないと解っていても、毎日表の世界にでる時間を極力減らして内に篭る。一日の大半をこの棺の傍で過ごしてきた。

ゼツからうちは一族の異変を聞き、あのイタチと出会ったことは俺にとって好機だった。万華鏡写輪眼に目覚めた男は俺やマダラの求める月読を所持していた。だからこそ、クーデターを鎮静する、つまり一族を秘密裏に滅ぼす手助けをすることを条件に月読の力の一部を貰った。犠牲になった写輪眼はダンゾウの下から失敬した。悪趣味に、あれだけ溜めこんでおいて、この殲滅が終われば奴の貯蔵庫に追加される同胞を思うと、里を捨てた身でも苛立ちが生じる。


イタチはもう覚悟を決めていた。俺はそれをただ見届ける。

――助けるわけでもなく、見捨てるわけでもなく。


これだけ絶望の中にいてもイタチは決して俺と同じにはならないだろうと確実に言える。
アイツが絶望するのは弟が死ぬ時だろうがそうならないように手を回している。抜け目のない。
俺もスズにそうしたかった。守りたかった。なにより、好きだと・・・いや、愛していると、一度でも彼女の目を見つめて、抱きしめて、伝えたかった。


頭の中には二人のスズがいる。

陽だまりの中で笑うスズと絶望の中で泣くスズ。


時と共に記憶の中のスズが後者の表情で覆いつくされていった。


そしてイタチの任務は明後日の夜になった。




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