おぼえていますか | ナノ
06





スズが名も明かされない子どもを倒した頃、アスマとの戦闘を楽しんでいた男はその結果に舌打ちした。
そもそも男がここにいるのは或る男から頼まれたからであり、その内容にスズが関係していた。

<隙あらば殺せ>


見る所卒業仕立ての下忍の小娘一人に何を、と思わなくもないが敗者となった子どもの実力を知っている男からしたら現時点で十分警戒すべき対象だ。
だが依頼主はあの少女を異常なまでに警戒していた・・・まるで、そう、あのかがちスズという駒一つで碁盤の勝敗が逆転するような……そんな気がした。

しかし霧隠れの鬼人に並ぶ狂人と名高い男には関係ない。
そもそも依頼自体破棄してもいい。彼は根っからの殺人鬼で戦闘狂なのだから。


アスマとのそれは彼の血を滾らせ、高揚させた。甲高い金属音も、地を蹴る足音、水遁と火遁のぶつかり合う激しい爆音。

だからこそ、それを邪魔するシカマルたちは彼を苛立たせた。
シカマルよりもイノやチョウジがスズに守られていたことを自覚し、今度はと、率先して師を助けるべく介入したことに狂人は怒り狂った。

優秀とはいえ所詮下忍、計算された攻撃も経験が足りないシカマルには弾かれた後の、予想との微妙な誤差に戸惑いが見て取れた。
イノやチョウジも相手の強さを正確に測りきれるわけもなく、結果、アスマやスズが危惧した結果を齎す。


最初に気づいたのは、矢張り介入された側のアスマだった。彼が静止の声を掛ける前に狂人の注意を引いてしまった部下たちは、アスマでさえ思わず後退してしまうような殺気を洩らす男にすっかり恐縮してしまっている。シカマルたちは挽回どころか窮地に立つはめになった。

アスマの武器がチャクラ刀の一種で風の性質を高めるように、狂人の投げ飛ばした棒手裏剣は千本よりも大きいため回避はしやすいが、特殊な加工によりアスマのチャクラ刀と同じで水の性質を纏っている。
水で鉄を切断するように、投げ飛ばされたそれは当たれば簡単に対象の身体に風穴をつくるだろう。


避けろ!と叫ぶアスマにシカマルは咄嗟に隣のチョウジを突き飛ばしたが、チョウジの隣にいるイノまでは届かない。
動けないイノ。その目には迫りくる凶器に対して涙があふれ出ていた。

(死にたくない死にたくない死にたくない!!助けて、父さん、母さん、・・・)

ギュッと目を瞑ろうとした瞬間、目の前には自分と対して変わらない小さな背中が守るように立ちはだかった。

(スズ・・・?)


全てがスローモーションのようにイノは感じた。そんな時間などないはずなのに、イノはサクラとは違った意味の親友に唖然とする。
先ほどの戦いもそうだが、スズは自分とは怯えてばかりの自分とは違った。サクラ相手ならイノは負ける気はしなかったがスズが相手では勝てる気がしない。

姉の様な、尊敬する先輩のような、恋のライバルとは違う親友だった。
下忍になって、少しは自分も彼女に近づけたと思っていた。が、現実は違う。足手纏いでしかない。


(何してるんだろう・・・あたし)


身体がスズの熱に包まれていく。迫りくる凶器はまっすぐ、スズの胸をあと数センチで貫くだろう。イノは悲鳴すら上げられなかった。



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