02
はたけカカシは現在上忍師として表で活躍しているが、未だに裏、つまり暗部の任務が回ってくることがある。
「あ、お久しぶりですカカシ先輩」
「なんだ、テンゾウか」
その日、カカシは暗部の控室で顔見知りが多い暗部の中でも一番と言ってもいいくらい親しくしている後輩と鉢合わせた。
喜色を滲ませた声のテンゾウに対し、カカシはいつものだらんとマイペースな態度。付き合いの長さか、テンゾウもその素っ気無さに文句を言わなかった。
「ところで先輩がこっちにくるってことは……もしかして例の『狂人』ですか?」
「ん?なーに…もしかしてあの霧隠れの狂人が出たの?」
服装こそ暗部のそれを着ているが、カカシの手元には上忍師スタイルでも手放さない愛読書が収まっている。しかしテンゾウの科白にカカシは視線を本から離す。
「あ〜その……」
どことなく言いづらそうな顔に怪訝な表情を浮かべるカカシ。
「なーによ。早くいいなさいよ」
カカシに急かされ、それでもテンゾウは一瞬躊躇するが、謂わなかったときのことを考えてそれを口にした。
「つい最近狂人の目撃情報があった場所に、木の葉のとある下忍たちがCランク任務で行ったそうです」
「(ぴくっ)」
カカシの纏うものが変わった・・・・テンゾウはごくりと息を呑む。
「そう…それってアスマのとこ?」
カカシが異常に気にしている少女がいるチームの話は、出来ればしたくない。
だが否定しても仕方ないと、テンゾウは首を縦に振り肯定する。
「あ、俺時間ですのでこれで失礼します」
気まずい雰囲気に圧され、テンゾウは任務時間を理由にその場を立ち去った。
その場はカカシ以外誰もいない。
そのため、カカシは人知れず、心の中でもう一つの名前を呟いた。
それはカカシの元班員で親友から頼まれたはずの、護りきれなかった少女の名前と偶然にも同じだった。
カカシの同期はカカシに気を使って表だって騒いだりしなかったが、班員の中でもカカシ以外は社交的で知人も多い。そのため、10数年前に亡くなった少女とそっくりな子どもがいたことは閉鎖的な里では当たり前だった(少女自体はその可能性に気づいていない)。
ただ同一視すればどちらの少女にも悪いと、三代目直属に謂われたため騒いでいない。
カカシもスズに悪いと思っているため(勿論元班員の方のスズ)似ているらしい少女に興味もなかったが、今の部下たちが口々に語るその少女は自分の知っている『彼女』と似ている。
だから別視していても気になってしまうのだ。
(いつか逢ってスズじゃないって整理しないとな。)
――その『いつか』は、すぐにくるかもしれない。
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