05
アスマ視点
「それでも私は木の葉隠れの忍びでミナト先生たちから受け継いだものを捨てられないの」
アスマはハッとした。
スズは笑っていた。
苦くて、苦しい笑みだった。息が切れているのが見て取れた。
それでもへにゃりと眉を下げて、悲しそうに笑っていた。
屹度アスマが云った様にしたかったのだろう。スズの死体は見つからず、カカシから伝え聞いた話でしか知らないが死に顔は苦しそうだったらしい。アスマはオビトの味方だったがスズの感情も知っていた。仲も悪くない、そしてよく気が利く紅とは別のタイプの面倒見のいい姉らしい少女だった。
屹度今彼女にこんな顔をさせた自分をオビトが見たら怒り狂うだろうなと思った。
火の意志は言い換えれば自分を犠牲に他者を守るものにもなる。だからこそアスマは嫌いだった。自己犠牲ほど無駄なものはないと彼は思っていた。
目の前の彼女はそれを今も昔も捨てられないのだと笑う。
今、自分がこれから面倒をみる子どもが泣きそうに笑うのを見捨てられるほどアスマは薄情でもない。
自分でも彼女の答えは解っていた。カカシに逢わないか?と問うたのは何でだろうか。
カカシとの交流はお互い上忍になってから深まったが、昔はガイやオビトを通してしか接していなかった。そんな曖昧な関係でもアスマはスズたちを相次いで失った後の怖いくらい荒れ果てたカカシを知っている。だから同情して、今口から零れてしまったのかもしれない。
自分よりスズのほうがカカシという個人についてよくわかっているからこそ『逢わない』と選択したんだろう。
なら俺にできることは・・・
「分かった。じゃあお前は俺の生徒のかがちスズだな。」
今のこいつを受け入れる。
キョトンとした表情がふわりと陽だまりのような笑顔に変わった。
「んで明日の演習の目的はお前も解っていると思うからこそ頼みがある。」
「ん、『手を出すな』でしょ?大丈夫だよ、あの子たちなら答えてくれるわ」
「お!そりゃ子守り歴が長い先輩を信じようかねぇ。俺も上忍師は初めてなんだ。餓鬼どもの世話は色々と手を焼くだろうし頼りにしてるぜ。」
「任せて」
お互い笑みを浮かべてスズの家を後にした。
帰路で懐から煙草を一本口に咥え、吸う。
「あ〜……味がしねぇ」
虚勢を張る時間は終わった。
アスマが行った後、見送りで靴を履いていたのもあってフラフラと目的もなく散歩することにした。
里の出入り口への一本道に存在するベンチに腰掛ける。夕闇が人の帰宅を促すが帰る気がしなかった。
家に帰っても一人なのだからと、足をプラプラさせながら空を見上げる。
スズにとって本当に逢いたかったのはアスマの云った様にカカシだったのか、それとも・・・
アカデミー時代見かけた幻影が脳裏から離れなかった。
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