おぼえていますか | ナノ
02



その日、猿飛アスマは口からため息が漏れそうになるのを堪えながら呼び出された馴染みの茶屋へ足を進めた。よく同期が集まるそこに今日は知り合いの姿はない。・・・たった一人を除いて。


「遅いぞアスマ!」

「・・・わりぃ」


奥の席で苛々とアスマを待っていたのはオビトだった。待たせたことを詫びたアスマだが店内に備え付けられていた時計の針を確認すると約束の時刻には十分ほど余っている。

普段人を待たせるのはお前だろうが!

しかしそこにいるのが平常時のオビトなら兎も角、今アスマの前にいるのは後に四代目火影相手に立ち向かえるほど成長する男の片鱗が感じられるほど、圧倒される雰囲気があった。


何故アスマとオビト、まだ外見は少年だからこそ問題ないがこれがあと十年も経てばさぞかし暑苦しかっただろう二人がここにいるのか。


「だからその時のスズが可愛いのなんのさ〜って聞いてるのか?」


胸焼けがしそうだと思いつつアスマは「ああ」と肯定し、それに気を良くしたオビトがまた再びスズについて惚気ていた。彼氏でもないくせによくここまで褒めちぎれるなと逆に感心する。

そう、アスマはオビトに惚気られていた。といっても彼の慕うスズに片想いしているだけで、その上オビトのもう一人の班員に思いを寄せているスズ、つまりミナト班は見事に三角関係が出来上がっていた。他人への配慮が出来、思いやりのあるスズだが変なところで鈍いようでオビトの自身への想いには気づいていない。オビトに向かって「頑張ってね!私も応援してるから!」と言われた日にはアスマは丸一日彼の男泣きに付き合わされた。


アスマがオビトの話を聞いているのはアスマ自身とある少女に思いを寄せていたからであり、オビトほどではないが彼のその想いも仲間内では有名だった。忍びとしても恋でもライバルであるカカシは当然、恋愛より友情だ修行だ青春だと暑苦しいガイに相談できるとはオビトは思っていない。

一番頼りがいのあるのは師であるミナトだが彼はスズの想いも知っているためオビト一人に協力できない。そこで消去法で残ったのがアスマだった。彼は幼少期から何かと苦労していたのである。


オビトはよく忍術を無駄なことに活用した。折角エリート一族の出身の癖に行動は肉体年齢の半分ほどの精神年齢が顕著だった。その日アスマが目にしたのは「この間髪の毛を縛ったスズが新鮮だった」とそれが如何に可愛いか変化の術で見せた。

確かに昔から下ろしている髪を二つ縛り額当てを外した姿は珍しい。へぇ・・・とマジマジと観察し過ぎたのかスズに気があるのかと疑い出したオビトがめんどくさかったとアスマは覚えている。


ギャーギャー騒いでいると本物のスズが通りかかり焦ったのも懐かしい思い出だ。






「・・・ほんとに懐かしいなぁ」


現在27歳になったアスマは当時好きだった少女と付き合うことに成功した。しかしその喜びを分かちあえる友も、その友が好きだった少女もこの世にはいない。
二人は第三次忍界大戦で殉職した。
だが戦死していったのは彼らだけじゃないし、彼らが相次いで死に別れた後アスマの母も別の事件で亡くなっている。

比較的友人の多い彼は今まで何人もの仲間を失ってきた。
それでも何故今になってあの友人の夢を見たのだろうか・・・


その疑問の答えはアスマの中にあった。昨日父であり火影でもある男から渡された今期のアカデミー卒業生でアスマが担当する四人の調書、その内の三人は親世代と親交があるため面識もある。紅やカカシに比べるとやりやすいだろうと思いきや、面識がない上に旧家を担当することになった紅、うちはや九尾をもつナルトを受け持つカカシが隣からアスマに愚痴をぶつけていたが、アスマは二人には言えない。

残り一枚、アカデミーからの評価は第三位、くノ一では一位の優等生だ。担任からのコメントも彼女の人格の良さを感じられた。

だが記載された名前に憶えがある。名前だけなら夢に見ることはないだろう。
しかし一緒に添付された顔写真は髪型や服装は異なると謂えども夢の最期に出てきた彼女にそっくりだった。


「かがち・・・スズか」


***



途中まで一緒に行っていた癖にアカデミーの前で一緒に教室に入るのは嫌だと云った恋人に泣きたくなったアスマだったが紅に遅れること数分。これから受け持つだろう生徒を呼びに教室のドアを開けた。

ガラリとした室内から自分が最後かと内心焦りはしたがナルトやサスケの姿を見つけ、カカシの遅刻癖を思い出した。アスマで15分遅れ、なら後一時間は来ないだろう男を「まだかよー」と不満を漏らすナルトに同情をせざるを得ない。


さて俺の教え子は・・・と親によく似た三人を見つけ、最後にある意味一番気にかかっていた少女に視線を向け、固まった。


吃驚したのは少女があまりにも今朝方みた夢の中のオビトが変化したスズに似ていた、いや、スズそのものだったからだ。

間抜けにもぽかんと口を開けたアスマには引き攣った表情のスズの心情を読み取ることは出来なかった。




prev next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -