03
去りゆく暁メンバーの中に、カカシはオビトを見つけて駆け出した。チャクラ切れ寸前だとか、深くはないが浅いとも言い難い切り傷から滴る血を止血しなければいけないとか色々あるが、そんなこと今のカカシには気にしていられない。
口布をしていても息が漏れる音は聞こえる。カカシの伸ばした手は、指先は、オビトの外套を掴んだ。そして、
「離せカカシ」
あっさり振り払われた。
おい、ここは感動的な場面だろう。何してんのお前?的にじと目で訴えるカカシに、オビトは嗤う。その間も彼の足は止まることを知らないようにスイスイ前へ進んでいき、必然的にカカシはそれを追うように走る。
コイツ、意外と速い!?
驚愕しているカカシすらオビトは気にしていない。一刻も早く、彼は彼の大切な人の下へ行きたいのだから。
「ついてくるな」
「イヤだ!」
「ちっ」
「舌打ちやめてヨ!」
オビトの一挙手一投足に敏感に反応しては、涙ぐむカカシ。鬱陶しそうに彼を一瞥したオビトは突然ハッと顔を上げる。スズに付けていた影分身からの情報に彼は小さく「時間だ」と呟いて瞳術を発動させた。
「オビト?!!」
カカシからの悲鳴なんて気にしない。
待っていろスズ、すぐに行くよ。
だけど、
「お前は邪魔だ、ここに置いて行く」
消えたオビトを前に、カカシは発狂した。
*
「オビト!」
突然異空間より現れたオビトを前にスズは声を上げた。
嫌がるオビトを抑え、無理矢理我愛羅の後を追ったサスケに着いて行ったのを怒られるかと構える。
彼女の膝には傷ついたサスケが頭を乗せている。オビトは一瞬硬直したかと思うと、すぐさまサスケを膝から落とした。ほぼ気絶状態のサスケは受け身も取れず、「うっ」とうめき声を上げる。
思わずスズも「あ、」と声を洩らす。それを言い終わる前に浮遊する感覚。オビトに抱き上げられていた。
「説教は後だ。こんな大怪我を…悪ぃ、もっと早く俺がくれば。分身は何してたんだよ」
消えた影分身からの情報は伝えわっているとはいえ、悪態をつかずにはいられない。
元凶たる我愛羅をキッと眼光だけで射殺すように睨みつけた。
オビト曰く、大怪我。スズは自分の膝小僧に出来た傷を見てポツリ、「大怪我」と反芻した。これがオビト的には大怪我らしい。医療忍術をつかえば数分で治るもの。こんなに心配されるならチャクラを温存するためだとか謂わずにさっさと治しておけばよかったと反省する。
だって今にも暴走しそうな危うさが、オビトにはある。
「そ、それより里の方はもう大丈夫なの?」
話題を変えるように態と大きな声を出した。普通なら此処に来た時点で向こうは鎮圧したと思いたいが、生憎里よりもスズを取るオビトだ。すぐに引っ付いてこなかっただけ驚きである。
首に回されたスズの腕にほんのり頬を緩めるオビトは「ああ」と短く返事をする。それに安堵するスズ。
「そういえばカカシにばれた」
「え…」
「俺を『オビト』と呼んでお前の所に行く邪魔をされてな、説明しろと五月蠅いし、鬱陶しいから置いてきた」
「………オビト」
知ってたけど、知ってたけど!!もう少しカカシに優しくしてもいいんじゃないかな!?
カカシの中では美化されたオビト。それもそうだろう、あんな別れ方をして、カカシにとってオビトの存在は大きい。多分私よりもオビトが大事だろう。そんな彼に、あっさり振られて…。
「戦闘中も最初なんか何もしないで畑の中で突っ立ってる、文字通りカカシ状態だったな。俺の方が活躍していた。だからスズ、アイツに良い所なんてもう一つも残っていない。女癖も悪い、公共の場で平然とエロ本を読む変態だ。俺の方が誠実で一途だぞ」
うん。何だか必死に自分アピールをしているのは解った。
確かに前の私はカカシが初恋だったけどね、今は冷め切ってるからね。
「オビトのことが一番好きだから」
だから安心していいよ、と伝える。首に回した腕に力を籠めて、更に密着することも忘れずに。
「俺も好きだ」
あ、真顔でた。ちょっと怖い。デレデレと形相を崩していたオビトが急に真顔になるとビクッてする。
二人して好き好き言い合っているすぐ傍では、駆けつけたイタチが地面に横たわっているサスケを見つけて抱きしめ号泣している。
さらにそのすぐ近くでは我愛羅とナルトの戦闘が行われ、やや遠くの木に背中を預けている気絶中のサクラ。
一番頑張ったのはナルトだと、後で駆けつけた忍者達はナルトに関する認識を改めた。
prev next